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「ちょ、行ってくるわ」
「アイスは?」
「いらない、これで会計しといて」
雪の肩にぽんと手を置き、財布を手渡した。
たまには奢ってやろうと思ったわけではなく、女に金を出させている姿をあの子に見せたくないが故の行動だった。
そうして俺がまぁちゃんのいるところまで行くと、目を逸らしながらも不快感を露わにした表情で「何?」と呟く。
「いや…ここで何してんの? ひとり? こんな時間に危ないよ」
「…しゅーちゃんこそ、彼女さん待ってるよ。やっぱり私に言ったことは嘘だったんじゃん。サイテー」
「違、…彼女じゃないし嘘でもない。俺は」
言いかけた時、床を泳いでいた彼女の視線がその手に握っていたスマホに向いた。偶然見えた画面には「ゆうま」からの着信。
ちらっと遠慮がちに一瞬俺を見たら、通話に応答するためこそこそと店の隅に移動した。
「もしもし、うん。わかったよ、はーい」
「(誰…ゆうま?)」
通話中の後ろ姿を見守りながら疑問だけが頭に残る。まだ会計中の雪の背中を確認して、ちょうど通話を終わらせたまぁちゃんに話しかけた。
「誰? 好きな人?」
「やめて、そういうのここで言うの」
「気になる。教えて」
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