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その子…幼馴染の真珠ちゃんは、たぶん俺のことが苦手。というのも彼女が俺の初恋で、気を引くために幼い頃イタズラしまくったのが原因だ。
毛虫を肩に乗せたり、ふたりで分けなさいと与えられたおやつを一人占めしたり、ゲームで真珠ちゃんだけを集中攻撃して泣かせたり。
まあそんなことばかりしていれば嫌われて当然なんだけど、あの頃は好きな子相手に関わり方がわかんなかった。
早く行け、5分前行動、と半ば強引に母さんに背中を押され家を出る。
ああ、だるい。家が隣だから出勤時間は30秒。それはいいが、気持ちの切り替えはうまくできないな、なんて。
真珠ちゃん家は、可愛いクリーム色の一軒家。昔はよく一緒に遊んだその家のインターホンを押すと、中から犬の鳴き声がした。
そういえば犬飼ってたな。名前は確か…そうだ真田丸。チワワに真田丸ってセンス、尖りすぎて印象に残ってた。しかもメスだし。
きゃんきゃんと吠えるその奥で、「はあい」と聞き覚えのある声がする。真珠ママだ。
ベージュがかったドアがガチャリと開けば、真田丸を抱っこしたママさんがまんまるの大きな瞳で俺を映した。
「柊ちゃん、久しぶりだねぇ」
上がって上がって、と手招きするママさんの胸元で抱えられてる真田丸が「うぅ」と唸った。警戒されてるな。そりゃそうか、何年ぶりに訪れたと思ってんだ。
「(あ、この匂い)」
挨拶をして玄関に踏み込めばふわっと香る、真珠ちゃん家の匂い。懐かしい。少し甘いその香りは初恋の匂いがした。
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