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冷凍庫の中の死体 2
何度か会って、話して。気づくとあの指輪は彼女のものになっていて。
彼女の少し強引なところも相まって、すぐに恋人になった。
トントン拍子ってこのことなんだろう。
押し切られるように結婚してしまった。
彼女の両親は俺をみて不服そうだった。
元彼は見た目も収入も、もっと良かったのに。その前の元彼はノリも性格も良かった。
(何故こんなクラくてダサい男を?)
そんな顔だった。
おどろいたのは、結婚式に、その元カレたちを呼んでいたことだ。
ーーよくもわたしを捨てたね。
残念だけど、もう寝てやらないからーー
そんな囁き声が聞こえそうだった。
彼女の、肌を隠しつつ、男ウケ抜群のスタイルを強調したウェディングドレスには苦笑いが出てしまった。
絶妙なセンスだ。
そんな彼女だけど、一緒にいると、何だか落ち着いた。楽しかった。心から笑えた。嫌なことを忘れることができた。
それなのに。
新居を探すという話だったのに、うちに住むとか言い出したのだ。 それは、うちで飲んでいる時だった。
「だって、一部屋余ってるし。ここに住みたい」
「ダメだよ」
「引っ越し費用が浮くでしょ?」
「ダメなものはダメ」
「なんで?」
彼女が、扉を指さした。
「あそこ、掃除すればいいんじゃない?」
それは、物置にしている部屋だった。
「新しい部屋を探そう。こんな汚い部屋じゃなくてさ。ゴキブリ出るし」
「全然汚くないのに」
綾香はブツブツ言いながら、ちょっと考えてから、
「今日泊まる。いい?」
首を傾げた。
「ナポリタンを作ってくれたらいいよ」
俺の返事に満面の笑みを浮かべた。
「よし。買い物行こう」
二人で立ち上がって、部屋を出た。
そう。これで話は終わったはずだった。
それなのに。
その日の夜。
彼女は夜中にトイレに起きた。
ビールを飲みすぎたんだ。
そして、すぐに寝室に戻ればいいのに、あの物置部屋へ行ってしまった。
そんな予感はしていた。
彼女はごく自然に物色を始める。ここに入ることは、前から決めていたかのようだ。
漫画がずらりと並んだ本棚。
その脇にある大きな箱。
それは、不可解な箱だ。
物に囲まれて気づかなかったけれど、今は、深夜。
彼女は低い振動音に気づいた。
そして、本の下にある扉に気づいた。
クーラーボックスに似た扉だ。上に引っ張り上げると開く。
本をのせたまま、彼女は持ち上げ、隙間から中身を見た。
「ヒッ!」
小さな悲鳴だった。
彼女の呼吸は乱れていた。
顔は青ざめ、指先も膝も震えている。
部屋を出た彼女が、また声にならない悲鳴を上げた。
俺がいたからだ。
「どうしたの? そっちの部屋に、何かあった?」
彼女は固まったまま返事をしない。
「何もなかったよね? ただの、物置部屋だったよね?」
俺は物置部屋に入り、冷凍庫を開けた。
「ほら」
中に入っていたロックアイスと冷食のギョーザの袋を見せる。
袋を持った手のひらが冷たく濡れた。
「一人暮らしの男の備蓄だよ」
彼女はかろうじてうなずく。
いい子だ。
俺は笑顔になった。
「さあ、早く寝よう」
震える彼女の肩を抱き、俺はベッドへと戻る。
彼女は見た?
中身をみた?
どこまで見た?
冷食の下には、新聞紙が敷き詰められている。
その下なのに。
見えないはずなのに。
ああ、足先が、ローファーが見えていたのか。
それとも、指か?
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