プロローグ

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『ロマンス小説家』なる職業があることをご存じだろうか。 オレの母親はまさにそのうちの一人で、オレはそのせいで散々な目に遭ってきた。まず、ガキの頃から友人らに『エロいの書いてる母ちゃん』をイジられ続けた挙句、オレは立派にグレた。さらに、クリスティーヌ・フランソワこと俺の母は性生活も奔放を極め、つい先日、男と駆け落ちして消えた。というわけで18の俺は、つい先日から絶賛路頭に迷っている。 どう生き抜くか悩んだ結果、オレは手っ取り早く『クリスティーヌの代筆をする』ことにした。 なぜなら、オレはクリスティーヌの原稿代が欲しい。そしてありがたいことに、全世界のレディーはクリスティーヌの原稿を待ち望んでいる。この状況を利用しない道はない。 覚悟を決めたオレは、オレ的に『エロくてクる』文章をオレ内部から抉(えぐ)り出し、何食わぬ顔で編集者に提出した。幸い、編集者のギベオンとかいう男はかなりの変人だったので、ワンチャンこいつの目をかいくぐって誌面に載るんじゃね??さらにワンチャン…誰も気付かないんじゃね??とオレは期待した。 ・・・ 「クリスティーヌ先生は今日もご不在、と。…まあいいや、とにかく先月の展開、僕はとっっても面白いと思ったのですが…どうやら読者の皆様は、そう思わなかったらしいです。このような手紙が出版社のほうに、嫌っ!というほど届いておりまして。」 オレ渾身のロマンス文章は、思惑通りワンチャンギベオンの目をかいくぐり誌面に載ったらしいが、読者が気付かないというチャンスは逃したらしい。ギベオンが持ってきたファンレターには、おおむねこんな事が書いてあった。 ”作風変わりすぎで人格疑う” "今月号、誰が書いた何?" ”急にヤ〇ザを出してこないで 元ヤン?” オレはクソッと頭を掻きながら、気まずさに明後日のほうを見遣った。 「その手のやつなら、うちにも腐るほど届いてますねーーー。ファンレターの宛先、ガッツリここなんでぇ。」 ギベオンは『そうですかそうですか』と感情の読めない笑みを浮かべた。 「…まっ、というわけで、次回最終回ですので!今までありがとうございました!!女史には、最後くらいはまともに書いてくださいね~ってお伝えしといてください!では!」 「さ…最終回!?待てよ、そんなあっさり打ち切りになんのかよ!?」 「はい!読者の意見が第一ですのでね~。」 嘘だろ、秒で連載消えたよ。 ギベオンが去った後ただただその場で打ちひしがれていると、すぐにまたドアノックが響いた。 「チッ、誰だよもー…は~い…」
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