揺れるストロー

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揺れるストロー

 何気なく見ていた。  仕事に行く前に買うアイスコーヒー。ストローを挿す手元。ストローの先端は、うまく挿さらないで蓋の上を歪に彷徨う。やっと中央に落ち着くと、ぱきっという小さい音。すっと入っていく。  仕事に行く前にコンビニに寄ってアイスコーヒーを買うのが、毎朝の日課だった。  毎日のように同じ時間にここに来る俺は、店員さんとは顔見知りのようになっていた。歳が近いこともあり、店長とはよく話す。俺はいわゆる、ここの常連客だった。 「ありがとうございます」  そう言って俺にコーヒーを手渡す若い店員さんとも、よく顔を合わせている。初めは俺のことを覚えていない様子だったが、最近は覚えてくれたようだ。俺がアイスコーヒーを頼むと、何も言わずにミルクとガムシロップを入れてくれるようになった。  彼女は、少し不器用らしい。アイスコーヒーのストローを挿すのが、異常に下手くそだった。他の店員さんは、こんな風に挿すのを失敗したりしない。  だけどある日、俺は、見てしまった。別のお客さんが買っていたアイスカフェラテに、彼女がストローを挿す。ストローは、彷徨うことなく入っていく。 「いらっしゃいませ」  俺がレジへ行くと、彼女は決まって小さく反応する。目が、ほんの少しだけ丸く開いて、俺を覚えていることを知らせてくれる。 「アイスコーヒーひとつ」 「はい、アイスコーヒーですね」  笑ってそう言った彼女は、慣れた手つきで氷を入れ、ボタンを押した。機械が豆を挽く音が聞こえる。  不器用だからじゃない。俺が頼んだアイスコーヒーのストローは、彼女の手が震えているせいでうまく入らないんだ。ふと彼女の顔を見ると、なんとなくぎこちない笑顔を浮かべているのに気が付いた。 「ありがとうございます」 「……ありがとう」  そう言って、受け取った。いつもすぐに立ち去るのを、今日は少しだけ遅らせてみる。  ——目が合う。彼女の瞳が、微かに揺れる。頬が、ほんのりと赤く色づいた。  ストローが挿さらないのは……俺のせい、みたいだ。
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