2 小田切

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2 小田切

 10月31日。5限後の休み時間。 「先生。トリックオアトリート」 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます」  俺が勤務する私立高校では、校内で菓子を食べるのは禁止だが、ハロウィンやバレンタインに持ってきて交換などするのはOK。  またミッション系だからか、校内の礼拝堂に行くと聖書科の教員からお菓子をもらえたり、自由参加だけど他の教員も自腹で徳用菓子を用意してきて声かけてきた生徒にはやったりする。 「小田切先生。トリックオアトリート」 「はい。あるよ。……あ、在庫切れだ」  ジャケットのポケット探ると、休み時間に入れてきたクッキーは既に空になっていた。 「ごめんね。放課後に社会科準備室来てくれたらあげるから」 「はーい」  更に職員室に着くまで 「先生、トリックオアトリート!」 「今品切れ」 「えー」 「放課後、社会科準備室来たらやるから」 「先生」 「あとでー。今品切れ」 なんてやり取りを繰り返していたら 『センセー、俺ももらいに行っていい?』 誰かの声が頭の中によみがえってきた。  クソ生意気なのに、どこか繊細な弦楽器みたいなあいつの声。  3年前の10月31日。  放課後、社会科準備室に来るとそいつは言った。 「センセー、トリックオアトリート」 「はいよ。クッキー終わったからお前はチョコレート。悪戯すんなよ」  ぶは、と笑って言う。 「校則破るなって?」 「あとちゃんと学校来い」 「来てますけど」 「遅刻早退でもいいから、休みは減らせ。お前出席日数考えて休んでるみたいだけど、この先もし病気とか何か事故とか不慮の事態があったら」 「へいへい。わーってます。……んで、俺、チョコレートじゃなくて欲しいもんあるんすけど」 「なんだよ」 「小田切センセーが欲しい」 「は?」
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