<旧友金田>

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「そうだったな、ていうと」 「うちのやつに来年は金婚式だねと言われていたから、50年になるところだな」 「そうか、そうなるか。俺はお前の2年あとだったな。そうなると高校卒業の話だけどな、50年どころか60年近くにもなるぞ。すごいことだな」 「そういうことになるかな。それから一度も会っていなければ、さすがに誰かはすぐには思い出せんさ。でもな、お前とは結婚式のあとだって、時々飲んだし、金田、お前には娘の結婚式にも来てもらったじゃないか。それが最後だったかな」 「そうか、そうだよな。結構会ってたじゃないか。それで娘さんの結婚式はいつだったかな」 「ええと、そうそう。孫が成人式だったから、まあ20年は前になるな」 「なんだって、佐多。お前の孫が成人だって。早いな、もうそんなになるのかい」 「おう、俺たちも年をとるわけだ。ところで、今日は二人だけかい」 「いや、後で、小池と竹岡が来ることになっている」 「お、小池か。そうかそれに何だって竹岡もか」 「そうとも。この同窓会は集まりが悪くてな。苦労するぜ。ま、集まりがいいのが喜ばしいとは限らんがな。それに正式な同窓会ではないし」 金田は、今まで手酌でやっていたが、空いた盃を佐多につきだして『注いでくれ』という風に催促する。 「おっと。すまん、すまん。気がつかなくて」 「あはは、お前はそうだよな。高校の時から気が利かない奴だったからな」 「なんてこという。俺は気が利かないって。そうかもな。いつも金田、お前にどつかれていたからな」 佐多は金田に酒を注ぎながら、当時を思い出したのか苦笑いを浮かべ、ついでに自分の盃も満たす。 「おう、そうともさ。高校一年のバレンタインのとき、お前覚えているか」 金田が高校の時の話題を持ち出す。 「うん、なにバレンタインだって、覚えていないな」 佐多は首をひねりながら応じる。
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