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「忘れもしない。あのときな、俺が好きだった芳江ちゃんにチョコ渡そうと思って待ち構えていたんだ。そしたら佐多、お前が横っちょから出てきて、芳江ちゃんが他の女の子といるところで、『これ、金田から預かったんだ。なんだか恥ずかしくて直接は渡せないって』と言いながら、お前は、俺が好きだった芳江ちゃんに渡さずに洋子ちゃんに渡しただろう」
「え、そうだったかな。忘れたな」
「何だって、忘れたなんて言わせないぞ。俺はお前に頼んだことなどない。余計なことしやがって。でもな、後でお前の魂胆が分かったよ」
「うん、なんだ」
佐多は、そんなことあったかなという風にすました顔で酒を飲む。
「お前は俺が芳江ちゃんを好きだと知っていたよな。確か、部活の帰りにお前だったと思うが、そのことを話したことあったからな」
「そうだったかな」
佐多は、ほんとうに覚えていないのかどうか分からいないが、そうとぼける。
「それでお前は、わざと俺からだと言って、洋子ちゃんにチョコ渡したのだろう。汚い奴だ」
「あはは、思い出したよ。あれな、あの時な。わりい、わりい。ほんとうのこと打ち明けるとな。今だから言えるが、俺は芳江ちゃんが好きだったんだ。それで恋敵のお前の邪魔をしてやろうと、お前は洋子ちゃんが好きだと思わせようとやったことさ」
「そうか。そういうことか。俺はあの時、お前に洋子ちゃんが好きだと話したことあったかなと悩んだよ。いや、ほんとはどっちも好きだったんで、結果的には良かったんだけどな」
「そうか、やっぱりな。古い話だけど良かったじゃないか。金田、お陰でお前、洋子ちゃんと結婚していい暮らしをしてるじゃないか」
「ああ、そうかな、そうともいえるか」
金田は、佐多の肩を叩いて「お前に感謝しないといかんかな」と告げる。
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