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<旧友金田>
「おい、こっち、こっちだ」
呼ばれた佐多は、周りを探るようにしながら声のする方向に向かう。
「ええとお前は、誰だったかな」
佐多は奥で手を振っていた男の横に立つと、かがんでその顔をじっくりと見つめて問いかける。
「なんだい、お前、佐多だよな。まさか俺の顔を忘れた訳じゃないよな」
「うん、佐多だよ。忘れたかって、いやそうじゃないが。うん、確か」
「確かって、佐多、お前な。俺だよ俺」
「おっと分かった、オレオレ君だよな」
「なに馬鹿な、詐欺みたいなこと言ってる。変なことばかり言うと殴るぞ」
「ええとちょっと待て、思い出した。その殴るという言葉な。お前、金田か」
「そうとも、金田さ」
ようやく思い出してくれたことに満足したのか、金田は「まあ、ここに座って、いっぱいやれや」と、すでにテーブルに用意されていた佐多の盃に酒を注ぐ。
「お、ありがとよ。それで、今日ここに来いやと俺を呼んだのはお前だったのか」
注がれた酒を口に運ぶと、佐多はそんな言葉を金田に向ける。
「そうともさ。お前が来たという話を聞きつけてな」
「そうか」
佐多は、金田に答えてから『ここは、いやに静かだな』という思いでも浮かんだのか、改めて周りを眺める。
「しかし久しぶりだな。ええと、佐多、お前とは高校以来になるかな。50年、いやそれ以上かな」
「高校だって。ちょっと待てよ金田。お前には俺の結婚式に来てもらったし、俺はお前の式の司会をやったじゃないか」
佐多にそう言われた金田は、自分が結婚したのはいつだったかなと思い出そうとする。
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