思い出は綺麗なままで

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思い出は綺麗なままで

「おはようございます」  朝の9時、家の前にやってきた幼稚園バスから降りてきた先生に挨拶をする。  元気な笑顔を私に見せてバスに乗り込む娘。バスの車窓から元気よく手を振る我が子の姿が見えなくなるまで手を振った私は、家の中へ入った。 「ふぅ…」  卯木(うつぎ)のぞみ、32歳。職業主婦。それが今の私。夫とは友人の紹介で出会った。趣味も性格も違うけれど、真っ直ぐな性格と、猛烈なアプローチに負けて結婚した。  今の生活に不満なんて無いけれど、なんか‥こう人生が決まっちゃった感があって寂しさのようなものに時折襲われることがある。  家族の思い出をこれから作っていく楽しみとか、子供の人生を見てみたいっていうのは当然あるけれど、が脇役に追いやられている事に寂しさを感じてしまう。  充実するような趣味があれば良いけれど、そんなものは無く、かといってこれから始めようという気力もない。家族の為に、私の時間を捧げる毎日が続くのだ。  テレビを付けながら、部屋の掃除をしていると、そんなことを考えてしまう。  家事をして、買い物に出掛けて、子供を迎えて、食事を作って、そして眠りについて……。繰り返される私の日常に刺激的な事は一切なかった。刺激的な人生を楽しめる人間なんて、今を時めく輝いてる人だけなんだと自分に言い聞かせる。  BGM代わりに付けているテレビから聴こえるのは、高校無償化についての話題。今の私には関係のない事だけれども、5年前まで高校で教師をしていた頃の思い出がふと蘇ってくる。  寿退職という事になっているが、そんな軽い言葉で言って欲しくない……。全て蓋をしてしまった思い出は、大事にしまっておきたい。 ——できる事なら私が死ぬまで
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