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というわけで、レオンとローランがチェス対決をすることになったわけですが、すぐには試合を始められませんでした。
あれだけ見下し発言をしておいて、ローランはチェスのルールすら知らなかったのです。わたくしが一から教えることになりました。
「ん? なんで歩兵はニマス動けるんです? 移動範囲と取れる駒の位置がちがうのも、腑に落ちません」
「ポーンは地味だけど、特殊な駒なのよね。ニマス動けるのは初動だけよ? アンパッサンという技もあるわ。これは使っても使わなくてもいいんだけど……あとで説明するわね。それと、相手の陣地の一番奥に行くと、キング以外の好きな駒に変えることができるのよ」
「好きな駒って、一番強い駒に変えるに決まってるじゃないですか? わざわざ、好きな駒っていうルール設定にする必要あります?」
「ええ。だいたいみんな、クイーンにするわね。でも、まれに……」
わたくしは騎士の駒をポーンと入れ替えました。
「ナイトにすることもあるわ。ほんとに、ごくごくまれだけどね。わたくしも噂で聞いただけ。遊び以外では見たことないわ」
「嫌いだなぁ、そういう無駄ルール。変化する駒は指定すべきですよ。くだらない」
「そうかしら? ゆとりがあったほうが、わたくしは良いと思うわ。娯楽ですもの」
「娯楽に興じるのは幼稚ですよ。僕は教養を得られるものにしか、興味がないです」
文句が止まりませんねぇ。でも、楽しいです。ローランも口でああは言っても、興味津々ではないですか。青い目が生き生きしているのですよ。こんな彼を見るのは初めてです。
「ねぇ、ローラン。あなたはどの駒が一番好き?」
「そんなの決まってるじゃないですか? 一番強い女王以外に選択肢はないですよ」
「強さっていうのは、一つの駒では成り立たないわ。わたくしは、他の駒にない動きをするナイトが好き」
わたくしは、視線をレオンへと移動させます。満足そうに微笑むわたくしのナイトが好きなのは、クイーンですよ。やはり血筋ですわね。
クイーンが好きな理由はわたくしみたいだから……ですって。わたくし、そんなに女傑みたいかしら? 素敵なナイトに守られるか弱いお姫様ですわよ?
トスはレオンがやります。白と黒のポーンをふさいだ両手の中で混ぜ合わせ、それぞれの拳で握りました。さ、お選びなさい。
神妙な面持ちで、ローランが選んだ右手から出てきたのは、白でした。
先手必勝ですよ。頑張って!
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