1、始まり

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 一年前――  ピヴォワン侯爵の一人息子、アルマンとの婚約が決まり、わたくしの両親は諸手を上げて大はしゃぎしておりました。と申しますのも、ピヴォワン侯爵は王国の北の三分の一を有するほどの大領主で非常に裕福だったからです。また、侯爵は先の戦争で名を馳せた英雄でもありました。  そんな名家との話が決まって、鉱山経営に失敗してしまった両親は天にも昇る心地だったでしょう。両親だけではありません。兄も妹も喜んでおりました。  この良縁が決まったのには訳があります。  一つは事業に失敗してしまったとはいえ、我が家は紛れもない大貴族。広大な領地を所有しておりますし、親戚には廷臣が何人もおり、王室との関わりもございます。しばらくの間、失態を覆い隠すぐらいのことは可能でした。  当初の両親の計画では領土をいくらか手放し、兄の結婚相手の持参金とピヴォワン家の財力を手に入れれば、借金はなんとかなると考えていたようです。  二つ目は、母マリアンヌの人脈でしょうか。  母は社交界ではかなり有名な才女で、頻繁にサロンも開いていました。母主催のサロンに招かれることは、貴族社会では一つのステータスとなっていたようですね。  そのような経緯でわたくしはシックな藍色のドレスに身を包み、ピヴォワン侯爵邸を訪ねたという次第なのです。  わたくし自身は、あまり乗り気ではございませんでした。母のように学問を究めたいという気持ちもございましたし、十五歳。デビュタントもまだなのです。結婚前に、もっと世の中のことを知りたいという欲もございました。
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