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呆れていたところ、二階からローランが下りてきました。広間の奥に二階へ通じる階段があるのです。
おや? ノエルと一緒に勉強をしていたのでは? 抜けてきたのでしょうか?
ローランは広々した空間をぶらぶら歩き、わたくしたちの近くまでやってきました。
つい先日、仕上がったばかりのジュストコールを着ています。初日に着ていたような凝った作りでないにしても、貴族らしい服装でした。シンプルな仕立てのほうがローランに似合っていると、わたくしは思います。あんまり、ゴテゴテ着飾らせると、女の子みたいですもの。こればっかりは、好みの問題ですけどね。
ローランはチェス盤を、さして興味もなさそうな目で眺めていました。
レオンは気づいているのでしょうが、丸無視です。夫婦の時間を邪魔されたくないのでしょう。大人げないひと……
「どうしたの? 勉強中では?」
わたくしが聞くしかありませんでした。だって、気になるでしょう? 話しかけてほしそうに、周囲をうろついているのですよ?
「ああ、ダルいので抜けてきました」
レオンの耳がピクッと動きました。あーあ、怒られますよー。邪魔したあげく、そのセリフはいけません。
わたくしは言葉を返さないことで、危険を伝えてあげました。ローランは言い訳をします。
「先生はできないほうばかり、見るんですね。ノエルの理解力が足りないため、僕の勉強が遅れてしまいます」
そう、きましたか……。
ノエルはたしかに、勉強が不得手ですわね。
「先生がノエルを見ている間は、自習すればいいんじゃない?」
「それにも限度がありますよ。一人で勉強しているのと同じです」
「困ったわね。均等に見てくれるよう、伝えておくわ」
「それも、どうかなぁ……先生のレベルが低いと思いますし、僕相手だと、上手く教えられないのかもしれません」
この失礼発言は問題ですよ? レオンのこめかみが、ヒクヒク動いたではありませんか。ローランは空気を読みません。
「ノエルって、かなり遅れてるんじゃないですか? 僕が六歳くらいにやってたことを、まだ勉強していますよ?」
もう……レオンの前でやめて……
「ノエルは勉強が苦手だけど、優しい子よ。遅れていると感じるのは、君のレベルが高いからじゃないかしら?」
「そうかもしれませんね。僕には三歳から教師がつけられてましたから。読み書きは、ほとんどしゃべるのと同時でしたよ。それより、何をされているんです?」
ローランはチェス盤を指して、尋ねました。
話がそれて、わたくしは安堵しました。これ以上、ノエルの悪口を言い続けられたら、間違いなくレオンがキレてましたからね。
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