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15、チェスを教えてください!
手加減するつもりでした。わたくし、大人げなかったでしょうか……
ローランは白。キングしか残っておりません。それこそ裸の王様にしてしまいました。こちらは騎士も僧正もクイーンも残っておりますから、チェックできますよね。ごめんあそばせ。
悪気はなかったのです。早い段階でチェックできたのに、手加減して他の駒を取っていたら、こんな有り様になってしまいました。
レオンは笑いをこらえています。
「君、大人げないなぁ……いくらなんでも、こんなえげつない勝ち方……」
「ちがいますわ! 手加減をするには、ローランは強すぎるのです。わざと負けたら、プライドを傷つけるでしょう?」
慌てて弁解しても、あとの祭りです。無残な盤面を前にローランは呆然としていました。
でも、もう泣いたりしませんでした。自分から手を差し出し、
「ありがとうございました」
と、握手したのです。悔しそうではありましたが、どこかすっきりした顔をしていました。
「強いだろう、我が妻は。全国順位7位だからな!」
レオンが得意げに言います。あなた、やめて。恥ずかしい……
ローランは碧眼を見開きました。
「えぇ!? そんなにすごい方だったのですか!?」
「そうよ、ごめんなさい。7位にしては、たいしたことなかったかしら?」
「いえいえ、そんなこと……」
ローランの視線はレオンへ注がれます。わたくしの順位がそんなに高ければ、レオンが何位なのか気になりますわよね? わかりますよ? でも、聞かないでちょうだいね。あなたほど賢い子なら、戦った感触である程度、強さを測れたでしょう。気遣いもできるはずよ。
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