3、始まり

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 わたくしの勇気は体内を暴れ狂う欲望に比べたら、ごくごくささやかなものでした。 「あの……ピヴォワン侯爵……厚かましく恐縮なのですが、一つお願いを申し上げても構わないでしょうか?」  彼は疑問符を頭の上にくっつけて、少しだけ首を傾けます。それは小鳥の動きに近しいものがありました。おわかりになるでしょうか? 彼は身長も高いし、筋肉質なのです。強面の初老なのです。   そんな厳つい彼が、かわいらしい振る舞いをすることの希少価値が! いわゆるギャップ萌えというやつです。  わたくしはキュンキュンしながら、勇気を振り絞りました。 「おとうさま……とお呼びしても構わないでしょうか?」  侯爵、卿という呼び方には距離があります。わたくしはもっと彼に近づきたかったのです。  ピヴォワン卿はキョトンとした鳥しぐさから一転し、破顔されました。 「なんだ、そんなことか? いいよ、好きなように呼びなさい。君は未来の娘なのだからね……」  最後の言葉はどこか影があるように感じられました。わたくしの密やかな願望が、そのように感じさせたのかもしれません。彼のそばにいられるだけで充分なのだから、欲深にならないようにと、わたくしは自分を戒めました。決して叶わぬ望みを抱いても、不幸になるだけですから……  ピヴォワン卿……いえ、おとうさまは貴族以外にもチェスを広めてはどうかと、ご提案されました。 「貴族社会は案外狭いものだよ。それに一年の半分は地方に住んでいる。王都に集結するのは春夏の社交シーズンだけさ。身分関係なしに能力だけで戦える場があるとしたら、とても素晴らしいことだと思うのだけどね」 「ナイスアイデアですわ!! おとうさま! すぐにでも実行しましょう」
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