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「三神さんは、急性骨髄性白血病という病気です」
侑芽が中学三年生に進級した時、新しい担任からクラスの生徒たちにそう話された。
日本全体が手探りでがん教育に関する道筋を立てようとしていた頃だ。教室の中には民間放送局のカメラが三台入っていた。
それぞれのカメラが、教壇に立つ教師、教室の全体像、そして、生徒たちの反応を捉えていた。
「ウソ」
絵里奈が椅子を倒しそうになりながら勢いよく立ち上がると、その直後に自分自身が倒れた。一瞬で教室が動揺に包まれる。
「皆さん落ち着いて。高橋さんと川島さんは御手洗さんを保健室へ」
「いえ、よろしければ私が」
そう声を上げたのは放送局の女性アシスタントディレクターだった。彼女は自分の意思ではなく、ディレクターに指示されて動いたようで、ディレクターから「できるだけ話を」と耳打ちされていた。彼女はその声に頷きつつ、絵里奈に「大丈夫? 立てる?」と訊きながら肩を貸し教室の外へと出て行った。
担任は絵里奈が支えられながらも自分の脚で歩いているのを見て、教室に残った生徒たちに話を続けた。
「白血病、癌は治療すれば治る病気です。ただ、身体に大変負担もかかりますし、副作用の強い薬も使わなければなりません。ですから、三神さんの見た目にも変化は出ます。でも、三神さんも、元の元気な彼女に戻ろうと病気と戦っています。今度登校してきたときは、いつも通り、今まで通り接してください」
担任は手元にある資料を見ながら話している。早春のまだ肌寒さが残る朝だというのに、担任の額には汗が滲んでいる。三台のテレビカメラがそうさせているのは間違いない。
「それから、三神さんの病気は他の人へ感染する病気ではありません。三神さんと話しても、手に触れても、病気がうつることはありません」
「キスは? キスしてもうつらねえの?」
いつも軽口をたたく男子がいつもの調子でそう言ったが、さすがにその取り巻きたちも呆れて無反応だ。
担任に叱られ、女子たちに冷ややかな視線を向けられると予測していたその男子だったが、まるでその発言がなかったかのように完全に無視されると、かなり場違いなことを言ったと悟り後悔したのか、机に突っ伏した。
その彼の耳に、ディレクターの「ガキが」という呟きが耳に入り、机にめり込むほどに頭を埋めた。
担任も当然呆れていたが、緊張はいくらか解け、残りの指導は時間内に予定通り済ませることができた。
その年の八月最後の土曜日から日曜日にかけて全国放送された番組で、病気と戦う侑芽とその家族が紹介された。
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