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「お母様も今世間を騒がしている『口裂き女』はご存知でしょう?」
母親の表情が歪んだ。当然の反応だが、直後に恐れが顔に出る。
「あの事件に真人が関係しているっていうんですか?」
折尾はその母親の反応を、刑事としての経験上ごく当たり前のものだと感じたが、それ以前にひとつ気になることがあり、それを確かめることにした。
「あの被害者とはネット上での知り合いだったようでして。それより、『葉蒲署』と聞いてすぐに警察署だとお分かりになったようですが」
折尾が今来ている石川真人の自宅は東京都三鷹市。葉蒲署は四国、高松にある警察署だ。真人の母親もそれを指摘され、寒気に襲われた。妙な偶然に恐怖したのだ。
「私の実家がある場所ですから」
「ああ、なるほど。そうでしたか」
一方で折尾もやはり単なる偶然ではないと判断し、間髪入れず質問を重ねた。
「差し支えなければ、お母様のお名前をお教え願いますか? ご結婚で苗字が変わっていらしたら旧姓も」
「亜紀です。旧姓は三神」
「ああ! どこかで見たことある美人さんだと。いや、失礼。高松では有名でしたからね。一方的にコマーシャルだとかポスターだとかで拝見していただけですが」
「あのっ」
「失礼。今は関係のない話、でしたね」
折尾はそう言って話を切り上げたが、妙なざわつきが胸の奥に生まれていた。
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