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亜紀が下っ腹に感じていた疼きが波を打つ。その波が頭の頂点に届いて目を覚ました。
「やだ、ちょっとあなた、なにしてるの?」
亜紀は足の間に顔を埋めている夫の頭に手を添え、引きはがすでもなく壁の時計を見た。
「もう、真人も起きるから、ねえ」
時刻は朝の六時半。亜紀の夫は、夜よりも寝起きに亜紀を抱くことが多い。男としての機能が弱くなってきてからは特に。
そして、亜紀も言葉では嫌な素振りをするが、それが夫を喜ばせるのを知っている。
「ダメだって、もう」
亜紀は目が覚める直前までに見ていた夢を全く憶えていなかった。ただ、何か夢を見ていた。懐かしく、恐ろしく、悲しい夢を。そう漠然とした記憶すらも、声を出すごとに消えていった。
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