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「美人は一笑千金。美人ってだけで得してるような言い方を世間はするけど、その姿をキープするのも大変よねえ」
「色々気を使うことは使いますね。だからこそ、美祢屋(みねや)さんのオーガニック野菜は欠かせません」
「やだもう亜紀ちゃん。おばちゃんの店、スポンサー? サポーター? なんていうのかしら、そういうのになっちゃおうかしら」
「わあ、そうなったら嬉しいです! 今度マネージャーも連れてきてみますよ」
「うんうん。いやあ、ほんと亜紀ちゃんが笑うと元気になるわ。そうそう」
しかし狭い店内だ。どこに逃げても店主の大きな声は聞こえてきた。
「『そうそう』ばっかり。敬具なんて使わなそうだもんね」
そんな嫌味を思いついても、侑芽は口には出さない。
侑芽はいつも運命を恨む。なぜ姉妹でこんなにも扱いが違うのか。
彼女も幼少の頃は姉同様、その容姿だけでチヤホヤされていた。
だが、今は少し笑うだけで気味悪がられる。彼女のクラスメイトからは容赦なく「キモい」と言われる。
中学二年の終わりに癌という名の邪魔者が侑芽の中に増え出した。最初は皆から同情され、癌に侵された当人以上に涙を流してくれる友達が沢山いた。
それなのに、侑芽が高校生になった頃。抗がん剤の副作用で醜く顔面に浮腫が現れ、毛髪が抜け落ちてくると、彼女自身が「病原菌」として扱われた。
侑芽を「主役」にしたチャリティー番組に出て以来注目された姉の亜紀が、モデルとして雑誌やテレビのローカル番組への露出が一気に増え、ファッション誌ではない男性向けの雑誌で「一笑千金」と書かれると、侑芽は「一笑千菌」と言われた。
「何笑ってんだよ、キメえな、病原菌!」
そんな言葉を浴び続けると、侑芽でなくとも沈黙のまま過ごすようになる。
それでも彼女は通院の時や、体調が酷く悪い時以外は学校を休まなかった。
病気にさえ勝てば、自分も姉のようになれるはずだ。ちょっと笑って見せるだけで、自分を馬鹿にしているような奴らを思いのまま操れるはずだ。
癌さえ消えてしまえば、自分も姉のように。そう信じて侑芽は常に何かと戦っていた。
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