一笑千金

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「美人薄命って誰が言い出したんだろ? 侑芽は子供の時から私よりずっと美人だったから」  侑芽が自分自身で最期の時を迎えるための手段として取った行動の後に連れてこられた病院から、闘病のために通院していた病院に移った時、亜紀はそう言って侑芽を抱きしめた。  侑芽も自分で気付いていた。もう長くないと。  元々病気ではなく虐めに負けて死のうとした身だ。もう人生に未練はない。未練はないが、あの時に死ななかったのはまだやらなくてはいけないことが残っているからだと侑芽は理解していた。 「お姉ちゃん、ごめん。私、学校に行かなきゃ」  回復するようにというおまじないのようにハンガーにかけられた制服を侑芽が掴むと、亜紀はそれを止めることができなかった。何かに操られているかのように身体の力が抜け、侑芽を抱きしめていた腕がほどけた。 「本当にごめんね。私にはやらなくちゃいけないことがあるから」  亜紀は気付いていた。三か月前、侑芽が退院する時に家の中にある全ての刃物を片付けていたが、ミシンと一緒に仕舞ってあった裁ち鋏みが今でも消えたままになっていることに。だが、それを口にするには亜紀の勇気は足りなかった。  妹の企みを見抜いたと知れた時、もしかしたらその刃が自分に向くかもしれない。そう警戒し続けていた自分の思考も読み取られそうで怖かった。  亜紀が最期に見た侑芽は、笑顔で謝罪しながら血の涙を流していた。
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