Episode1

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「脅してもまだ足りないの?恐怖でしか言うこと聞けないなら俺もそのつもりでいないといけなくなるんだけど。傷付けたくないから黙って言うこと聞いててよ。もう、好きとかそういうの求めないから。」 付き合っていた頃の陸は絶対手を出す人じゃなかった。 嫌がる事はしない、優しい陸。 今の陸の瞳を見てもそんな陸は既に居ないのだと悟る。 これ以上抵抗したら何をされるか分からない恐怖に玄関先にあった合鍵をそっと渡す。 まだどうにかできると思っていた。 その考えは既に甘いのかもしれない。 合鍵を受け取った陸は「いい子」と笑うと私の叩かれた頬を優しく撫でる。 その笑顔にも思わずゾッとした。 瞳が全く笑っていない。 「今日は疲れたよね、また会いに来るから。ゆっくり寝て休んでね」 そう言って合鍵を持ったまま、背を向けて立ち去っていく。 ここ数年で、何があったの。 どうして変わったの。 別れてからずっとこのときを狙ってたの? 香苗と繋がったのは本当に偶然? 全てにおいて疑心暗鬼になる。 今の仕事はキャリアもあって絶対壊されたくないってそれだけだった。 だけど陸の異様な様子が怖くて、写真の事よりも何よりも陸の読めない行動が何より怖かった。 私の好きだった柔らかくて優しい陸は、もう居ないのだろうか。
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