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異端(ゼノ、レン)
静まり返った廃ビル、普段ならば物音ひとつしない真夜中。妙な気配にレンは浅い眠りから目を覚ます。
一体が薄暗いのはいつもの事で、それらに何の不思議も無い。
何か異質な気配を感じたのはレンの直感で、突き動かされる胸騒ぎに簡易ベッドから身を起こし周囲の様子を探る。
廃棄されたこの廃ビルでは窓や扉はあって無いようなもので、剥き出しのコンクリート壁に手を添えレンは部屋から廊下に出る。
すぐ隣の部屋は腹心であるトモがナツから預かっている客人のアキとダイの部屋となっており、レンは室内に顔を覗かせベッドの上で仲睦まじく寄り添う二人の姿を認めると僅かに表情を和らげた。
二人は関東の半グレ組織から命を狙われており、数ヶ月前にナツのたっての頼みでチーム内に匿う事にした。
ダイは年相応の落ち着きもなくやんちゃな子供で、大人しいアキが何故ダイを選んだのかは不思議でならなかった。
アキを見るとレンの心がざわつく。怯えたような瞳、自らの不遇を嘆く悲観的な態度はレンが嘗て深く愛した相手にとても似ていた。
二人に異常があるのなら考えられる可能性はひとつしか無いとレンは足を進めて階段を下りる。ガラスの無い窓から射し込むネオンの明かりを頼りにつつレンが向かった地下には重い鉄の扉があった。それは嘗て倉庫として使われていたもので、鍵は外からしか掛けられない。おまけに外まで声が聞こえない事から誰かを監禁するにはもってこいで、その扉が半分ほど開けられている事に気付いたレンは足を止める。
何者かの侵入を想定したレンだったが、周辺の半グレチームは当然の事ながら自分たちに手を出してくる事は無い。出したところで返り討ちにあうのが関の山で、警察ですら滅多に介入してくる事は無い。
だとしたら可能性はこの地下室に監禁していた人物に関わる事で、この部屋には昨年からある人物が厳重な監視の下監禁拘束されていた。
レンが最初で最後に愛した相手、チカと最後に対面したのはもう五年も前になる。事件以降チカはひとり関東へと移り住み久々に連絡が来たのは三年前の事だった。
――『御影』。チカの実の兄でチカの人格形成に大きく関わった男と言える。実の兄でありながら幼少期からのチカに対する執着は凄まじく、チカは二十歳の誕生日を迎えた時その御影に犯された。
チカが関東に戻った後も御影はチカを付け狙い、三年前の連絡では御影がチカの大切な相手を傷付けた報いを受けさせたいと言われた。チカには昔から想いを寄せる相手がいて、関東へ戻った事でその相手と晴れて結ばれたという事もその時に聞いた。しかしそれは同時にレンの心に大きな穴を空ける事にもなり、その穴を埋めるべくレンは仲間らと御影を浚い制裁を加えた。
それから一年と少し経過した去年には元右腕であったタケから連絡があった。チカとタケが一緒にいた頃は正に犬猿の仲であったが今は同じ職場で働いているとも言う。そのタケから聞いた話では御影が再びチカの前に現れ、チカを凌辱し精神崩壊にまで追い込んだという事だった。
一度ならず二度までも――。指名手配犯となった御影をレンらは総力を挙げて取り押さえこの地下室に監禁してきた。本来ならば殺しても飽き足らない存在だったが、幾ら畜生以下の人間であってもチカの肉親である事には代わりが無い。生きている事を後悔するまで毎日のような拷問と暴行を繰り返している最中だった。
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