ⅩⅨ

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ⅩⅨ

「総ちゃん、正義に告られたんだって?」  ニヤニヤとしながら尋ねてくる透に「うんざりだ」という表情を浮かべる総次。総次の目が覚めたので正義は事務所での事務作業に戻り、進と透の二人が交代で総次の様子を見に病室にやって来る。  入院をしたのは前回と同じく藤吉の勤める病院だったが、あれから美優にはまだ会えていない。目が覚めた翌日、藤吉が見舞いに来て美優が退院をしたことだけは教えられた。今は元気に学校にも通っているらしい。藤吉は以前総次に指摘された食生活の改善のため、出来る限り早く家に帰るようになり自炊を頑張っている。その為必然と総次の病室にやって来られる時間も減ってしまったのだ。 「で、付き合うの?」 「分かっててそれ聞くんですか?」 「分からないから聞いてるんだけど」  ギシリ、とベッドの片方に重心が傾く。見ると、透が片膝を乗せ総次を枕元の壁際に追いやっていた。片腕を顔の横につかれ逃げ道を塞がれた総次はその腕と透の顔を交互に見るも、透の顔が迫ってくるだけだった。 「――進から、総次が刺されたって聞いた時は俺の心臓止まるかと思った」 「それは……ご心配をおかけしました」 「分かってないでしょ、総次は」 「なにが」  答えの代わりに唇を重ねても、普段通りの無反応だった。やはり、総次の感情を揺さぶれるのは貴斗以外居ないのか。それならば、貴斗の居ない今誰がもう一度総次にあの笑顔を取り戻してやれるのか。  自分には無理だという事はとうに分かっていた。それでもあの大学時代から、総次が貴斗と付き合い始めるより前からだったかもしれない。総次だけを見つめ、総次だけを思い。この十数年間特定すら作らずに総次だけが心の中に居た。戯れに身体を重ねる事なら出来る。総次はそれを拒まないから。それでもやっぱり、『心』だけは永遠に手に入れることが出来ないのか―― 「総次が幸せになっても貴斗は恨まないと思うよ」  総次は透の顔を真っ直ぐと見据える。 「誰かに与えられる幸せとか、俺はまっぴらなんで」  修哉の件と同時に貴斗の件も整理が着いたものだと思っていたが、総次にとってはそう簡単なものではないらしい。  総次の事件は連日報道された。魔法など重要な部分は勿論公表されていないが、藤見修哉による志村祐一郎の殺害、春原美優の傷害事件。そして綾瀬総次に対する殺人未遂。失踪したと思われていた総次の三番目の恋人、加藤健太の事件にも関与している恐れがあるとの事だった。  本人は気付いていないかもしれないが総次は案外弱い。その上自分の限界を分かっていない。 「迷惑かもしれないけど、俺は総ちゃんの事を思い続けるから」 「迷惑……自覚、あったんですね」 「喧嘩売ってる?」  心が手に入らなくても身体だけなら。総次が自分の意志で事務所を出て行きたいと言うまで。 「魔法使いが二人になったからこれから仕事捗りそうだなー」 「でもアイツ、俺のこと抱きたいって言ってますよ」 「え、まじで!?」 「付き合うってなったら当然その流れになるでしょう?」 「なら無し! 正義と付き合うとか絶対無しで!」 「……元から、そんなつもり無いんで」  そう言う総次の表情はどこか悲しげだった。
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