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角度を変えて何度も唇を重ねた数分後――
「ちか兄?」
「……足りねえ」
「えっ?」
突然千景が言い出した。玲於からしてみればもう十分過ぎる程キス溜めが出来たので、何を以て千景が「足りない」と言っているのかと心当たりが無かった。それでも千景から沢山のキスを強請ってくれる事は玲於にとって嬉しく、千景が玲於を引く力に合わせて腰を屈め二人一緒にリビングに腰を下ろした。
千景の口角が僅かに緩む。油断している玲於の口腔内にするりと舌先を滑り込ませ同時に頭部を抑えて距離を取れないように固定した。
「ぅんっ!?」
玲於には初めての感覚だった。千景の舌が自分の口の中に入ってきているだけでも感涙であるのに、その舌先が玲於のそれをなぞり絡め取り擦り合わされる。
「……っぁ、ふう、ン……ちか、に……」
閉じられない口の端から唾液が伝い流れ落ちる。玲於の背筋がぞくぞくと震える。今まで生きてきた中でこんな感覚は初めてだった。脳の奥がじんわりと痺れていく、それと同時に主張を始めたそこが、痛い。
「……れお?」
「待っ、て……俺、今、何か、ヘン……」
千景が唇を離すとどちらのものとも分からない銀糸がぷつりと切れる。千景は多少燻りを残しつつも満足したように自らの唇を舐め上げる。
見れば玲於が耳迄赤くして俯いている。まだ玲於には刺激が強すぎたかと考えつつも妙な動きをしている玲於の視線を追うと必死に両手で股間を隠そうとしているのが分かった。
「変って……ああ、キスで気持ちよくなっちまったんだ?」
「ふえ……?」
若いなあと思いつつも考えれば普通な事かと納得した千景は、玲於の寝間着のスウェットを押し上げつつ滲みを広げるそこを撫でる。
「りゅう達は教えてくんなかったのか? こういう時どうしたら良いのか」
問い方としては少し意地悪な気もしたが、スウェットと下着を下ろせばぷるんっと天を仰ぎ主張する玲於の雄をそっと握り込んでから上下に扱き始める。
みるみる成長が加速するそれは身長と比較して自分よりも大きいかもしれない。当の玲於は両手で顔を覆い隠してしまったので表情を窺い知る事は叶わないが、浅く荒く繰り返される呼吸が何よりも明確に表現していた。
間違っている事は千景にも理解出来ていた。穢してはいけない存在だった筈なのに、指の間から僅かに漏れ聞こえる玲於の声が理性をぐらつかせた。
欲を言えば顔が見たい、どんなに可愛い顔をしているのか。
舌先で鎖骨から首筋をなぞり、玲於からも見えない角度に唇を当てる。噛まないように、気付かれないように。小さな吸い上げを何度も繰り返して小さな緋を残す。
指先でも彼を愛でて、初めて触れたこの箇所。もう二度と触れる事は無いとしてもそれを忘れる事が無いように。可愛くて、可愛くて、愛しくて――――
「ちか、にっ……あっ、あ……、ンんっ……」
ぶるっと玲於の腰が震え千景の手の中に精が吐き出された。
「かわいー声出すじゃん」
千景は手の中のこれを舐めてみたいと思ってしまった。そんな事をすれば十年前の比ではない。向けてくれていた好意と信頼が一気に失われる可能性もあった。
玲於にとってこれが人の手による初めての射精だった。十年前の比ではない。自分の物を握るのがこの愛しい人の手だという事が更に拍車を掛けた。
「……は、あっ、ちか兄が、触っ、て、っから…………ちか兄?」
ぐったりと肩を落としつつももう一度あの感覚を味わいたいという気持ちもあった。もう一度先程と同じ濃厚なキスを貰えば反応するだろうか。
キスしたいキスしたいキスしたい、えっちなキスしたい。気持ちよくなりたい。そんな思いが玲於の頭の中を占領し始めていた。
先程の一言から千景の反応が一切無い。何か怒らせるような事をしてしまったのだろうか。千景相手だったから仕方の無い事だったのだ。十年前のあの日、あの後千景の顔を思い出して何度も一人で抜いた。従兄にもドン引きされた。初めて直接千景に触って貰えたこのチャンスを自分は何か無駄にしてしまったのだろうか。追い出されてしまうのだろうか。二度と会えなくなってしまうのだろうか。
そろりと千景の顔を覗き込むと聞こえる静かな寝息。
「もうっ!」
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