第五章

3/3
前へ
/55ページ
次へ
「ん……」  リビングで寝落ちてから何時間経った頃か、千景の意識が浅く浮上した。ベッドに眠っている事にはすぐ気付いた。千景は酒で記憶を失った事が一度もない。だからこそ自分が玲於にした事もしっかり覚えていた。普段ならば酒を飲んで寝た時は何があっても朝まで目を覚まさないはずなのに何故今日に限って浮上したのか、千景が思考を巡らせる中普段とは異なる違和感があった。 「……ちかにぃ」 「な、あっぅ……」  玲於に呼ばれた。いつもの事だったので返事をする必要は無いはずだった。  玲於の手の動きが普段とは違っていた。いつもならば肌をぺたぺたと触るだけで満足していたはずが、玲於が今触れている所は普段とは違う。玲於の指の腹は千景の胸の突起を優しく撫で、突起もそれに呼応し屹立を示し始めていた。寝ている間ならば大した事では無かっただろう、この行為そのものが千景を深い眠りから覚まさせたと言える。  指の腹で撫で回したり、爪で先端を引っ掻いたり、時折捏ねくり回したりと玲於は様々な刺激を千景に与えてくる。  先程のディープキスで千景は満足したものの、若い頃のような反応は示さなかった。その程度の事ならば酒が入っていても理性でなんとかなる範囲の事だったからだ。 「ちかに……かわい、ココ……」  背中を向けている状態で千景は更に顔を枕へと向ける。思わず声が漏れてしまいそうだったからだ。寝ている事にしておけばそれ以上はどうにもならない。寝ていたから知らないと何とでも言い訳が出来るからだった。  違和感はもう一つあった。普段の玲於ならば体を撫で回し首筋を舐め回す程度だったのだが、今この時は玲於が背後で動いている。呼吸も普段以上に荒い。その理由が千景にはすぐに分かった。正直なところ分かりたくはなかった。千景が寝落ちた時着替えが不十分だったはずである。千景は自分で寝間着を着た覚えは無かった。上半身は確かにいつものスウェットを着ている。その中に玲於は手を入れているのだ。下半身はというと――ズボンを穿いていない、明らかに両足は露出した状態だった。合わさったその両足の間に先程からずっと何かが抽出を繰り返している。響く粘着質な水音と当たる肉の音。玲於は千景の両足を使って自慰を行っていた。  千景は後悔した。自覚してしまったそれは瞬く間に火がついていく。内腿が震える。玲於が擦れる度に先端から先走りが零れ落ちる。 「……ッ、……は……ぁっ……ぅんん……」  声が抑え切れなくなってきた。枕に押し付けても隠しきれない吐息を聞いて玲於は千景が起きている事に気付いてしまった。  玲於は千景の肩を掴んで自分の方を向かせようとしたが、玲於は枕を掴んだまま小さく頭を左右に振った。  玲於は今千景がどんな顔をしているのか見たくて仕方が無かった。怒っているのだろうか、それともあの時のように上気した欲に融けた顔だろうか。玲於の行動はいつも綱渡りだった。千景に嫌われたくないという気持ちが先走り、思いを行動で表わせられないでいた。  愛しているという本気を千景に伝えたい。千景に拒絶されたら玲於はきっと生きてはいけない。それならばいっそ二度と会わない方がマシだった。  千景の気持ちを知りたかった。弟以上の感情を自分に対して抱いてくれているのか。 「……嫌なら逃げて」  玲於の精一杯の言葉だった。千景が嫌ならば態度で示して欲しい。嫌でないのならばこのまま受け入れて欲しい。首筋に唇を近付け、大きく口を開いて、噛み付いた。 「れ、おっ……」 「――ッ!!」  じんわりと、千景の足の間と腹部に生暖かい液体が広がる。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加