第六章

2/3
前へ
/55ページ
次へ
「ちか兄俺の事嫌いになったのかな……もしこのままちか兄が帰って来なかったら……」 『おいレオー? 帰ってこーい』  玲於の自己世界の中では絶望的な何かが繰り広げられているらしい。今から様子を見に行く事は出来るが、どうせ明日には千景の家に行く話になっている。千景もそれを知って居るのだから帰ってこない訳が無いのに、と思いながら虎太郎は電話越しに玲於を宥め賺す。 「乳首こりこりしたのが駄目だったの? 素股でガンガン突いたのが嫌だったの? ちか兄に捨てられちゃうの!? そんなの嫌だあっ!!」  ガコンっと虎太郎の手から携帯電話が落ちた。幸いにも通話は切れていなかった為虎太郎は通話状態をハンズフリーにして机に置く。 『いや何してんのよお前』 「だって俺はちか兄にも気持ち良くなって欲しいの。あの日みたいなエッロい顔にガンガン突っ込みたいし、ちか兄の事アンアン言わせたいし、ぐっちゃぐちゃに掻き回したいし、どろどろに融けた顔見たいし……」 『れおくーん……』  何重にも増して聞き逃し難い単語が並べ連ねられた。玲於が千景の事をそういう対象で見ていたのは虎太郎も知っていた。問題は千景が玲於を受け入れるかだけだった。同居問題に関してはスムーズに行ったので見込みはあると思っていたが、十年間押し込めていた玲於の想いは千景という餌を目の前にして爆発してしまったらしい。  心配するだけ徒労ではないかという疑惑が虎太郎の中に浮かぶ中、電話越しに千景のものらしき声が聞こえた。 「ちか兄!!」 「遅くなってごめんなぁ、最近飲み会多くってさあ」  この日の千景は昨日に増して上機嫌だった。二日連続の飲み会だけは避けたかったが明日は土曜で休日だからと丸め込まれ、この時間まで付き合わされていた。もしこの時間に千景が離脱していなければ二次会、三次会と付き合わされていた事だろう。翌日は虎太郎が訪問する予定があった。予定があるからと切り上げてきたがそれでもかなり粘られていた方だった。  それでもこの時間まで帰宅しない事は今まで無く、昨日の今日で帰宅が遅くなれば玲於が気にするだろうとこれでも全力で早く帰ってきた方だ。 「ぢが兄! ぢが兄いぃぃ!!」  電話一本入れられなかった事は千景に非があり、玄関口に突進してきた玲於を受け止めた千景は扉に背中を強打する。千景の不安は的中しこの時間まで帰宅を待っていた玲於は顔面を涙と鼻水でぐちゃぐちゃに濡らしそこから一歩も動かないと言わんばかりに千景にしがみついた。 「涙と鼻水すっげえな、一人でお留守番寂しかったのか?」  ここまで思われて気分を害する事などあるのだろうか。ぐちゃぐちゃな顔ですら愛おしい。袖口で涙を拭ってやりつつ目元に浮かぶ涙を唇で吸い上げる。 「寂じがっだあ……」 「ほおら、男の子だろ。泣かないの、ほらちゅーしよ、ちゅー」  今日はキスをする回数が少ない。起きてからの一回と家を出る前の一回。家を出る前はうっかりして舌を入れそうになった。酒の上での悪戯と誤魔化す為にはそれ以外では今まで通り振る舞わなければならない。 『ちか兄……そんなキャラだったっけ……?』 「ちか兄ぃぃ……」  唇をこめかみ、瞼、頬へと順に落としていく。玲於の感情が落ち着いたのを見計らって唇を重ねる。何度も唇を重ね下唇を甘噛みすれば期待をしてか玲於の唇が薄く開かれる。 「ちか……」  遠慮がちに覗かせる舌先に吸い付くとするりと迷いなく玲於は千景の腔内に侵入して千景のそれを追い掛ける。漸く捉えたかと思えば顎を引き意地悪く笑みを浮かべる。そして再び唇を重ねて互いの表面を擦り合わせる。 「……は、ぁ……んん……」 『……あの、電話切っても……?』
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加