第二章

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「オレもちか兄ちゃん洗う!」 「へぇー、やってくれるんだ? じゃあお願いしようかなあ」  思わず鼻歌が漏れる。天使のような玲於と一緒に風呂に入って裸の付き合いをするなんてまるで本当の兄弟のようだと浮かれ気分で泡立てたナイロンタオルをやる気十分の玲於に渡す。 「ちょっ、痛い痛いもっと優しくっ……」  一生懸命頑張ろうとする玲於は全身全霊を乗せて千景の背中を上下に擦った。まだ加減を知らない子供というのは本当に恐ろしいもので、ざりっと音がした瞬間に皮膚が捲れたのではないかと思う程の痛みが走る。 「……ちか兄、痛いぃ?」 「もうちょっとだけ優しくね?」 「うん!」  怒られたと思ってその大きな眼に涙をいっぱい溜めて問われれば今すぐ抱き締めて甘やかしたい衝動にも駆られるが、責任を持って最後まで任務をこなすという事をこの機会に学ばせてみようと千景はほんの少しだけ心を鬼にした。それでも今後玲於が竜之介や虎太郎の背中を流すと考えると多少腹が立つ。 「背中終わったー」 「終わった? じゃあ今度は前かなあ。俺がそっち向くね」  ある程度は広いとはいえ、小さな玲於に右往左往させてしまっては濡れたタイルで転んで頭を打つ可能性もある。一度椅子から立ち上がり玲於の方を向いて座り直す。 「でっけー……」 「誰のと比較してんの」  玲於の視線はある一点に注がれていた。十九歳という年齢から考えれば特に大きくも小さくもなく打倒なところだろう。これがもし竜之介や虎太郎と比較した上での発言ならばこれ程嬉しい事はない。 「っ、待って、レオ」 「優しく……」  止めようとした時点で既に遅く、無垢な玲於はナイロンタオルで「でかい」と称したそこを包み込優しく上下に洗い始めていた。他人の物に手を出す時は一度自分の物で試してからにして欲しい。ざらつきを石鹸の泡が包み込み、小学校三年生の弱い握力が時折敏感な箇所を強く刺激する。 「んんンっ……!」  内腿が意識とは別に強く痙攣する。玲於としては本当に優しく洗っているだけのつもりなのだろう。屹立を増すその成長に合わせて手を先端へと滑らせていく。 「……ちかにぃ、痛いの?」  ガタンッ  椅子から滑り落ちて千景は腰を強打した。支えを欲した肘がシャワーの蛇口を掠め適温のお湯が千景の体に塗れた泡を綺麗さっぱり落としていく。  ――ヤバイ。  この状況を誰かに見られたら玲於相手におっ勃てた変態と思われる。母親や涼音からも白い目で見られ、御影からは一生脅迫のネタにされる。何より二度と玲於に会わせて貰えないかもしれない。それだけは避けたかった。 「ちかに、ここ、痛いの……?」 「ま、待って待ってレオ、止まって、それ触っちゃやばいや、ッつ……」  玲於を止めようと手を伸ばすが、若い肌は保湿が十分な分滑りも良く千景の手を交わし玲於は両手でそれを包み込む。 「ひっ……」  思わず声が漏れるかと思った。玲於は心から千景を心配しているのだった。明らかに先程までとは形状の違うそれがどうしてそうなったのか、玲於はまだ知らなかった。ただそれがたんこぶのように腫れてしまったものならば痛いの痛いの飛んでいけと撫でてあげれば治りが早いだろうか。  善意から特に腫れが酷い先の部分を柔らかい男児の手で撫で回す。治まりますように、痛くなりませんようにと。 「ちかに……」 「……や、だもうっ……それ、やめて……っ」 「え……?」  上気した頬、恥辱に浮かぶ涙、千景を見た時玲於の時間が止まった。言葉に表せない何かが自分の中に生まれた事が分かったのだ。今の玲於の感情や千景の状況を明確に表す言葉をこの時の玲於は持っていなかった。ただどうしようもなく千景のその顔から目が離せなくなっていた。 「ちか兄、かわいい……」
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