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序章
――涼音叔母さんが亡くなった。
叔母に対して特別な思い入れがある訳ではなかった。母親と二十歳以上年齢が離れた叔母は千景にとって姉のような存在だった。
享年三十六、早過ぎる死を伝えてきたのは歳の離れた妹の涼音を娘のように可愛がっていた牧子――千景の母親だった。
本来三親等の身内に対し忌引き休暇は取れないが、今の職場に中途入社してから約一年半、いつの間にか付与されていた有給休暇の使い道とばかりに千景は母親から伝えられた葬儀の日程に合わせて有給休暇の申請を行った。今まで勤めていたブラック企業と異なり、天国とも思える今の職場は急な千景の有休申請に対しても仕事の事は気にせず故人を見送っておいでと優しい言葉をかけてくれた。
こんなに楽になるのならばもっと早くに転職をしていれば良かったと今日ほど思った事はなかった。あの頃の千景にはそれすらも考える余裕など無かったのだ。
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