モノガタリは一冊から

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モノガタリは一冊から

「はい、というわけで……夏休みの読書感想文の練習をしましょう。みなさん本を読んで作文を書いてください」 「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」  長い。悲鳴がめっちゃ長い。三年一組の教室は、一瞬にして阿鼻叫喚である。  まあそりゃそうなるよなあ、と教師の私は苦笑した。  読書感想文。夏休みの宿題の中でも特に嫌われものの課題である。自由研究は人によっては楽しいと思うかもしれないが、読書感想文が楽しい人は少ないことだろう。ただでさえ、現在の小学生の子供達で、読書が好きな子は稀だと聞く。私自身、子供の頃非常に苦手な課題だったので気持ちはよくわかる。  本来ならば読書感想文なんてのは、夏休みに一度だけやればいいことであるはずだった。  ところが、去年夏休みに読書感想文を出させたところ、その出来が全体的にあまりにも酷くて一部の先生達がカンカンに怒ってしまったのである。  昨今の事情を配慮して、デジタル文書での提出を許可したのがまず大失敗だった。  ぶっちゃけ、AIに感想文を書かせる人、よそからコピペした文章を持ってくる人が多発したのである。  中にはクラスの数人がほぼほぼまったく同じ文章の読書感想文を出してくる、なんてこともやらかした。ようは、お互いに本の感想ブログを見て、みんなしてまるっとコピペしててきたわけである。  AIに書かせた文章を見抜くのは難しいが、ちょいちょい実際の本と異なる記述があったり、日本語が変だったりするところから見抜けたりするものだ。あとは、小学生がまず使わないだろう難しすぎる言い回しが入っていたり、とか。  そんなわけだから、まともに採点をつけることさえ難しく、真っ当に課題をこなしてきた生徒が気の毒になるレベルだったのである。まあ、便利なネット社会、こういうことになるのも予想はしていたが。 ――まあ、あれは流石に駄目だったわよね。……感想文以前に、該当の本を読んでない子が多発したんだもの。  とりあえず、本を読む習慣、感想文を書く練習はさせておくべし。そして、面倒でも昔に戻ってアナログで作文を書かせるべし。会議でひとまずそのように決まってしまったのだった。当然、生徒たちは猛反発だが、こればっかりは自業自得としか言いようがない。 「パソコンで書けば楽なのに」  ぼそっと呟いた生徒の一人に、私はにっこり笑って言った。こちとら、伊達に彼らより三十年も長く生きてはいないのだ。 「武田くん。そう思うなら、チャットGPTに感想文なんか書かせるんじゃありません。去年担任だった北川先生からばっちり聞いてるわよ。貴方のような子がいっぱいいたからこんなことになってるんです。結果、ペーパーレスの時代に逆行する羽目になってるのよ、わかります?」 「あぐぐぐぐぐぐぐ」  沈没する武田少年。まあ、彼は面倒くさがりなだけで、やろうと思えばできる子だと知っている。こうして脅せば渋々課題はこなしてくるだろう。 「今から図書室に行くので、各々本を借りてください。どんな本を借りたか先生に申請してね。それを読んで、みんなには感想文を書いてもらいます」
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