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有無を言わさぬまま新名に連れ込まれた、フリータイム三千円の安ホテル。シャワーを浴びる余裕もなくスプリングの錆びたベッドの上へ放り投げられた暁は繰り返す反論の言葉を新名の唇で塞がれる。
「待っ、やめろってっ、俺なんも知らなっ、んんッ!」
体格の差は歴然で、幾ら垢抜けたといっても特に鍛えている訳もない元陰キャである暁の身体を、学生時代から喧嘩っ早く今でも週に三日はボクシングジムに通いその身体を磨き上げていた新名が組み敷くことは容易かった。先程までは街中という事もあり、大事にして警察を呼ばれるような真似を避けたかった新名はまだ大人しく、嫌がる暁を問答無用でホテルに連れ込むまでに留めたが、誰にも邪魔をされることのないこの空間に場所を移したからには容赦は無用だった。
明らかに絃成に関する何かを知っていながらもそれを執拗に拒む暁の口を割らせる為には立場を分からせる他は無いと、閉じようとする両足の間に身を割り込ませ、スキニー越しに暁の中心部を握り込む。びくりと暁の背中が大きく震え、せめてもの抵抗か新名の肩に手を掛け押し返そうと試みるが新名の屈強な身体が暁の貧相な両腕で押し返せる訳も無かった。
「なんも知らねぇハズのテメエが、何で俺がイトナに刺された事知ってんだあ?」
「知ら、っない……」
痛い程に強く、新名は暁の敏感な部分を擦り上げていく。バレてしまったのは紛れもない事実だったが、それ以上の情報だけは決して新名に漏らしてはいけないと本能的に察していた暁は、新名の手に追い立てられながらも目線を正面に見据えたまま小さく左右へ首を振る。
「あーお前のソレもう聞き飽きたわ」
少しでも強引に迫れば断れないほどに暁がお人好しである事を新名は十二分に知っていたが、同時に一度固く心に決めたことに関しては決して意志を曲げることの無い頑固者であることも痛いほど知っていた。何かを知っているにも関わらず、それを決して口に表そうとはしない暁に辟易した表情を浮かべた新名は、どんなに意地を張ったとしても最終的にはいつでも心が折れて屈してしまう暁の性質をも分かっていた。
拒む姿勢は嘘偽りの無いものだったが、皮膚に掛かる吐息、艶めかしく触れる舌先の動きはどれも暁の弱い箇所を的確に狙う。
それは絃成と萌歌が付き合い始めて間もなくのことだった。気付けば絃成を視線で追っていた暁が露骨なまでに気落ちしている姿を新名は見逃さなかった。揺さぶりの為に軽くカマを掛けてみれば、支えるものなど何ひとつ無かった暁の精神はいとも容易く崩れ落ちた。
無骨で骨ばった新名の指が鍵を抉じ開けるように暁の身体を拓いていく。黙って姿を消して四年、怒りを覚えるほど執着こそしてはいなかったが、四年経とうが暁の本質や性感帯が変わる事は無く、奥まった排泄孔へと指を進めれば比較的すんなりと受け入れられた。
「ンだあこれ、また随分やわけぇじゃねえか」
予想に反して拒まれることなく受け入れられたその場所に新名は目を細め小さく口笛を鳴らす。四年も間が空けば必然的に硬く閉ざされ時間も掛かるものだと考えられたが、まるでつい最近本来の用途以外の目的の為に使用されたかのような伸縮性は新名の中での疑問を確信へと変えた。
「っん、や、やだ、やめてろっくん……」
「ろっくんねぇ、そんな呼び方すんのお前だけだぞ」
殆どの年下組は『兄』という敬称を付けないまま新名のことを『ニーナ』と呼び捨てる。新名以外の全員が名前を愛称にしているのにも関わらず、新名のみ愛称が名字となっているのは、その方がずっと呼びやすいからであった。それであっても暁が新名の事を名前の愛称で呼ぶのは、それだけ暁の中では新名が親しい存在ということであり、新名も暁に対してだけは名前の愛称で呼ばれることに内心では優越感を覚えていた。
「お前のカラダ開発してやったの誰か忘れた訳じゃねぇよなあ?」
言葉巧みに拐かし、自分好みに調教してきた暁の身体。内部を掻き回す音は次第に淫靡さを増していき、それに呼応するよう上がる暁の体温は肌越しに新名へと伝わる。
自分の身体を知り尽くした新名の手管が容赦なく暁を絶頂の淵へと攻め立てる。暁はそれに抗える術を持たず無意識に求めてしまう快楽に涙が頬を伝い流れ落ちる。
「っく、んんっろっく、やだ、やっあ、」
甘い言葉を囁かれた事は一度も無く、それを求めるような間柄でも無かった。新名にとってはただ怯える小兎が物珍しく、それを逃がすつもりの無い捕食者の眼をした新名は、狭い肉壁の中である一点のみを集中的に繰り返し狙い、跳ねる暁の身体を愉悦の表情を以て眺めていた。
暁の本質がどこにあるのかは定かでないが、男に組み敷かれる屈辱は新名も想像に難く無かった。
「そこっ、やめ、や、っだぁ……ッ、ン!!」
パチパチと火花が弾けるような刺激に、暁は抵抗虚しく腹部へ白濁を垂れ流す。それでも止まぬ衝動に焦点は合わず、細かく息を切らせながら天井を仰ぎ見上げる暁の瞳は過去の苦い記憶を思い出させていた。
抵抗らしい抵抗も出来ず、身体を弄び続けられた過去。そんな過去の自分と決別をしたくて、変わりたくて努力をし続けていた。その結果は何も変わる事が出来ない事実を否が応でも暁に知らしめた。
「お前の身体だけは昔も今も変わらず正直だなあ」
「ろっくん、やだ、イったばっか、無、理ぃっ……」
僅かな刺激でも小さく震える敏感な部位を強めに握り込み、新名は暁の耳殻へと舌を這わせる。ぞくりと震える身体はそれ以上のものを無意識に求めてしまい、制するように掴んだ手にも力が入り切らない。
「お前イトナの事匿ってんだろ」
耳元で囁かれた低い声に孕む怒気を暁は敏感に感じ取った。先程まで指先で蹂躙されていた箇所にはいつの間にか質量も異なる雄の象徴が宛てがわれており、ひくりと鳴る喉の動きを新名は見逃さなかった。
「しらっ知ら、ないっ……! あっぁンん……や、だぁ」
新名の手の中で再び硬度を取り戻すそれは暁を更なる絶望へと突き落とす。絃成との一夜もまだ記憶に新しく、暁が何よりも大切にしたいと胸に抱いていた思い出が呆気なく瓦解してしまいそうな感覚に暁の頬を涙が伝う。
「……も、許して……お願い」
昔の関係に戻るつもりは無い。暁は確かに変わったはずだった。あの日、絃成が再び目の前に姿を現すまでは。
「イトナは今何処だ?」
「……知ら、なっ……ぐ、っぅ」
尚も堅く口を閉ざす暁の中へと新名は腰を押し進める。身体だけではなく心までをも凌辱していき完全に支配していく。それが新名という人物の性根であり、決して那月との折り合いが付かない要因の大きなひとつであった。
「お前はメスなんだよ。メスはただオスに従ってりゃいい」
性処理の道具として利用された屈辱、新名の隷属から抜け出せていない絶望と的確に与え続けられる快楽の刺激に、いっそ堕ちてしまえば楽なのではないかという考えが暁の思考を塗り潰そうとし始めていた。
「――もう一度聞くぞ? イトナは何処だ」
「……ろっ、く……」
新名が首を掴む指先に力を込める度、暁の全身が強張り拒絶するように全身の筋肉が収縮していく。愛に殉じるなどと言えば聞こえは良いが、もし自分が口を噤むことで絃成が少しでも逃げる時間を稼げるのならば――暁はそれでも良いと思った。
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