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 予告などあって無いもの、突発的に催されたパーティという名の飲み会は、主賓のひとりが惰眠を貪り始めたことにより自然にお開きを迎える。  十二帖ある広々としたリビングは中央に座すローテーブルの三辺をフロアソファが囲い、圧迫感もなく寛ぎの空間となっていた。  テーブルの上に転がるアルコールの缶らはその日の飲酒量を如実に示しており、招かれた側である春杜はその消費量から顔全体を赤く染め、肘掛けに頭を傾ける形でうつらうつらと重い目蓋を揺らしていた。  春杜の傍らにはパーティのホストである秋瀬が控えており、寝室から運んできた毛布を春杜に掛けた上そっと柔らかそうな栗毛を撫でる。 「んん……冬榴ぅ?」  平身低頭の思いで口説き落とした可愛い恋人は、別の男の名前を呼びながらへにゃりと表情を緩める。春杜の寝顔を見守る秋瀬は嬉しそうな表情に心満たされたまま柔らかく白い頬を指先で突く。長い睫毛が陰を落とし、抵抗するように目蓋を動かす度蝶の羽ばたきのように揺らめく。 「はいはい」  この小さく可愛らしい存在が自分のものであるという事実に比べれば、他の男の名前を寝言で呼ぶなど些末に過ぎなかった。春杜の薄ピンク色の唇を人差し指でなぞった後、秋瀬は半分開かれたままであるキッチンへと繋がる扉の先へ顔を向ける。 「冬榴ー、春杜さんが呼んでるー」  キッチンから聞こえる流水音は秋瀬の呼びかけから僅か後に止まり、その暫く後に赤茶けた髪を襟足まで伸ばした冬榴がタオルで手を拭きながら顔を覗かせる。 「んー、分かった、ちょっと待って」 「冬榴ぅー」  それがまるで鳴き声であるかのように、繰り返し冬榴の名を繰り返す春杜の様子を秋瀬は愛しそうに眺めていた。  秋瀬の呼びかけから数分後、黒いニットの袖口を下ろしながら洗い物を終えた冬榴がキッチンからリビングへと姿を現す。春杜がどれ程の飲酒量であったのかは冬榴も知り及ぶところで、この体たらくではまともに駅まで歩くこともままならないだろうと感じた冬榴は、ジーンズの尻ポケットに入れたままのスマートフォンを取り出しながら春杜と視線を合わせてソファの前に膝をつく。 「春杜さん帰れるの? タクシー呼ぼうか?」 「んー」  冬榴の言葉の何割が伝わっているのかも分からない上機嫌な様子で春杜は秋瀬の手に纏わり付く。 「今日はぁ、ヒロんとこ泊まってくぅ」  薄ら開かれた目蓋から見え隠れする瞳は熱を帯びた涙で震えるように揺れていた。春杜の言葉に冬榴と秋瀬は思わず顔を見合わせる。泥酔状態のままタクシーを使い帰宅したところで鍵すら開けられなさそうなこの状態から考えるのならば、このまま秋瀬の部屋に泊まっていく事も仕方の無いことだろうと冬榴は納得するしか無かった。 「――分かった。じゃあ俺は片付け終わったら帰るから」  冬榴はスマートフォンを再びジーンズの尻ポケットへ戻し膝をついていた状態から立ち上がり、テーブルの上に転がる空き缶を数個手に取り再びキッチンへと向かう。  冬榴の部屋は秋瀬の部屋から徒歩で十分程度の距離にあり、それとは反対に春杜の部屋は電車を乗り継いでも一時間半以上掛かる場所に位置していた。冬榴の部屋に春杜を泊めることも出来たが、無理に移動させるよりも恋人である秋瀬のこの部屋に泊まることが春杜自身の望みでもあった。この日も春杜が秋瀬の部屋で飲むからと唐突に春杜から呼び出された冬榴だったが、他でも無い春杜に呼ばれれば例えそれが深夜や連日であろうと冬榴は駆けつけずにはいられなかった。
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