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1,秋活部
「響子、秋の七草、どのくらい見つかった?」
奥村穂香が響子に尋ねた。
「この間の休みに一日かけて田舎の方に行って、フジバカマをやっと見つけたよ」
「よかったね。ネットの情報?」
「そう、行き方とか場所を詳しく教えてもらった」
「私のこの間、絶滅危惧種のキバナコスモスを見に行った。最近、ピンクのコスモスしか咲いてないから、黄色いコスモス新鮮だったよ」
奥村穂香と谷川響子は、中学2年で同じクラス。友人というだけではなく、「秋活」というクラブに入っていた。
と言っても部員は2人の他男子が1名所属しているだけなので正式なクラブとは認められていなかったが、担任の柏原先生はその秋活の主旨に賛同して、自ら顧問を買ってでた。
柏原先生がもたらす情報は、大いに役立っていた。
秋活とは……
年々減少していく秋の特有のものを探し集めることを、目的としていた。
20××年、地球温暖化は二酸化炭素の削減などの対策もあまり効果がなく、年々顕著になっていった。
その結果、1年のうち夏がほぼ半分を占めるようになった。5月~10月が夏、春は3,4月、冬は12月、1月、2月。そして秋は11月の1か月だけだった。
秋は最も感覚で捉えがたい季節。
目を凝らし耳を澄ませ五感を研ぎ澄ませて、ようやく捉えることが出来る。
再生に向けて芽生えていく春と違い、消滅の運命の渦中に繰り広げられる、はかない美学。
そんなはかなさが特徴の秋はどんどん夏に侵食され、このままでは本当に消えてしまうかもしれない。
実際、もはや中秋の名月は「中夏の名月」となり、コスモス,彼岸花、リンドウなどの秋の植物は、数を減らし絶滅の恐れに晒されていた。
そんな中、秋を愛し、世界の果てに追いやられていく秋の風物を探して集めようと始めたのが、秋活部だった。
集めるといっても、捕獲したり摘んだりはせず、写真に撮るのが原則だった。
イワシ雲などの自然の風景の写真も、秋活のコレクションに加わった。
花の香りや焼き芋やサンマを焼く匂いなどは、写真に説明の文章が書き添えられた。
10月になっても、連日25℃以上の夏日が続き、30℃以上の真夏日になることも少なくなかった。
もはや10月が夏に明け渡されたことは、明白だった。
それでも、7月8月9月の猛暑の容赦ない連続からすると、やっと人心地つける暑さだった、
響子は外にも出られないくらいの猛暑の中でひたすら秋を想い、脳裏に秋の風景を描き続けた。
今、教室の黒板には、10月29日と書いてある。
ほとんどの生徒は半袖で、開け放たれた窓からは汗ばむような熱を孕んだ風が吹き込んでくる。
窓の外の校庭に目をやった響子は、桜の木の葉が早くも散り尽くしていることに気付いた。
黄葉や落葉は秋の領分であってほしいと、響子は落胆した心で思った。
そこへ、担任の柏原先生が入ってきて、「秋活の話し合い?」と2人に声をかけた。
響子が夏の間に散った桜の葉のことを言うと、先生は校庭の桜の木に目をやって答えた、
「昔から桜の木は落葉が早かったけれど、最近は異常に早いわね。桜も夏バテなんて言われているけど、猛暑に加えて雨不足で、桜は乾燥に弱いから、葉から水分が蒸発しないために葉を落とすという説があるの」
「来年の桜の花は、大丈夫なんですか」
「そうね、花には影響ないようね。お花見も、春にちゃんと出来るでしょう」
響子と穂香はひと安心した。2人は先生に秋活の最近の成果を話し、先生はにこやかにうなずいてから、響子に尋ねた。
「谷川さんは秋の七草に特化して調べているの、偉いわね。それはどうして?」
「はい、それはおばあちゃん、祖母の影響です」
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