さようならかありがとう

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でも、あることに気がついた。 「あれ?おれたち明日からどうやって生きていけばいいの? 俺たち、誰も仕事の貰い方を知らないよ。だからリーダーが頑張ってくれてたんだったよね。」 ビー、シー、ディー、イーが顔を見合わせたあと、コクコクと首を縦に何度も振った。 「どうしよう……仕事出来ないと、ご飯食べられない。住むとこ無くなる。生きていけない!」 「ええ!? どうしよう……どうしたらいいんだろう」 「大丈夫だよ、リーダーお金残して死んでるはずだから。しばらくそれを、使わせてもらう」 「あ、そうだった! 良かった……しばらくは安心だね」 それから俺たちは、仕事を貰おうと駆け回った。 なかなかうまくいかず、どんどん蓄えは減っていく。 そのうちに、俺たちは毎日泣いて過ごすようになった。 「どうしよう……どうしよう……怖いよ、仕事出来なくなったらもう生きていけないよ」 「大丈夫だよ、イー。畑したりしてみよう。」 「ねえ、エイ。おれ、娼館いこうかな。仕事先で似たようなことさせられたし、よく褒められたよ」 「あ、俺もだよ。そうか、その手があったね」 俺たちは、みんなで娼館にお世話になることにした。 どうやらこの仕事に向いているらしく、俺たちは5人の稼ぎ頭になった。 そこからは幸せに暮らしてる。 時々、お客さんとして美しい人がやってくる。 そして、すごく悪くて美味しかった人間の話をしてくれた。 「娼館はいいね。娼妓が客の死を願うだろう? そういう時、たくさん甘いものが手に入るんだ」 「もしかして、仲間がいっぱいいなくなってるのは、あなたのせい?」 「あなたが一番酷いよ」 「でも、お腹が空いたら僕も死んじゃうし、娼妓もそれで仕事の無いところへ行けるんだよ」 「その理屈だとリーダーと変わらないよ!」 「それに、そうやって食べていってたら、そのうち誰もいなくなるんじゃないの?」 「そうなればいいと思ってるよ」 美しい人は、そう言って悲しそうに笑った。 「悪い人がいなくなったら、あなたも死んじゃうってこと?」 「そうだね」 「わかっててそうしてるの?」 「そうだよ」 「……どうして?」 「大切な人が悪い人になってしまって苦しんでいたんだ。助けたくて、このお菓子を作ったんだよ」 そう言って、また悲しそうに笑った。 「もしかして、それはリーダーのこと……?」 「さあ、どうだろう」 苦し気に笑う彼の手には、リーダーがつけていたのと同じ指輪があった。 「そうか、そうだったんだね」 俺たちは、美しい人が少しでも笑えるようにしてあげたいと思った。 「じゃあ、最後まで俺たちに会いに来てね。ずっとあなたの幸せを願ってる」 たいして贅沢もしないない俺たちは、もう死ぬまで安心して暮らせる金を貯めていた。 そして誰かを恨むことも死を願うこともない。 もし裏切られて失っても、その時誰かを恨めばすぐに死ねるという希望も持っている。 酷い人生を生きなくてもいいという、その希望をくれたのは、紛れもなくこの人なのだ。 リーダーを悪い人にしたのは、俺たちだったはずなのに、俺たちを幸せにしてくれたのだ。 「怖いものが無い俺たちは汚れないよ」 心からの思いを伝えると、美しい人の前に、ピカピカに輝く球が現れた。 「なんだろう、これ」 美しいひとがその玉に触れると、それは小さく分かれてその口の中へと飛び込んでいった。 その喉が動いて体の中へと入り込むと、彼は目を輝かせて言った。 「これは君たちからのありがとうの気持ちだ! 殺したい気持ちよりもっと美味しい!」 「ほんとう!? 良かった、じゃああなたはずっとお腹を空かせなくていいね」 「そうだね」 「そうだ」 「良かった」 「『死ね』も『ありがとう』もご馳走だ」 俺たちは、浮かれて小躍りしながら口々につぶやいた。 それを聞きながら、美しい人は言う。 「それなら僕は『ありがとうの実』を食べたいよ」 「でも『ありがとう』を無理やり言わせるのは酷いよ」 「『死ね』って思われちゃうね」 「……なんだか難しいなあ」 「眠くなったよ」 「寝ようか」 「そうしよう」 「また明日ね」 「うん、おやすみ」 俺たちは眠った。 また明日を一生懸命生きるために。 美しいひとも一緒に眠った。 また明日も、誰かを幸せにするために。
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