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Special story05. 獅子の嫉妬
「やーん、匡さま、もう帰っちゃうの?」
「はは、また来るよ。次も色々教えてね…?」
「えー?…ねぇ、奥さんに内緒で抱いてくれたら…、もっと私が知ってる秘密教えちゃう」
「へぇ、そんなん持ってんの?もったいぶらないで教えてよ」
「ふふっ、ここじゃダーメ!…ね、ホテル行こ?」
ネオン煌めく夜の街。偽りと駆け引きが蔓延るこの世界こそ、私の夫が生きる世界。
「あ、あの…莉音さん…」
「ねぇ、伊達…」
「はい…」
後部座席に足を組んで座り、車窓に広がる不快な光景を真顔で見つめる私は、静かに低く、運転手の伊達に声をかける。
「あそこにいるのは匡で間違いないかしら?」
「あの、莉音さん、…匡さんはあの女から情報を引き出すために…」
「伊達」
「はい…っ!」
後部座席と運転席とを隔てる黒いカーテンを割って、前に身を乗り出した私は、伊達のネクタイを掴んで引き寄せ、怯えたように目を開く彼ににっこり綺麗な笑みを作った。
「あそこで女に腕組まれてるのは…匡で間違いないよね?」
「…」
「あれー?私の目がおかしいのかしら?ねえ、伊達、無視?聞いてる?」
「お、おかしくないです!お嬢の言うとおり、あそこにいるのは匡さんです!」
「…」
まさか、伊達だってこんなことになるとは思っていなかっただろう。
匡から連絡を受けて今から迎えに行くという伊達に「お願い、連れてって?」とあざとさ全開でおねだりして車に乗り込んだというのに…。
車に私がいたら匡はどんな反応するだろう、とか…
家で大人しく待ってるなんてできない、早く会いたい、とか…
そんな乙女全開なことを考えていた私の脳内はあっという間にアウトロー。
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