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「なぁ、伊達…。浮気は女と喋ったら、…だよなぁ?」
「り、莉音さん…だから、あれは仕事で…」
「匡ちゃん、この間私がキャバクラのお仕事したらめっちゃ怒ってたんだけど。あの時の私のお仕事とぉー、ヤクザのお仕事。何か価値に違いでも?」
「…いや、あの、…すみません」
急にギャルみたいな口調になった私の情緒不安定さに恐ろしさを感じたのか、両手でハンドルを握って身を縮める伊達を少しかわいそうに感じた。
少しだけ我に返って、ふぅっと息を吐きながらシートに背中を深く預ける。
再び窓の外を見れば、店前で匡に絡む女と普段私の前で吸わないタバコを片手に宙を見上げる匡。
ねぇ、なんで私が知らない匡を他の女に見せてるの?
…匡は私に気を遣って、私の前では吸わないって分かっているけど…、その女の前の方が匡が好きなこと出来てるみたいで…。
今はそんなことすら怒りの種になる。
伊達が何度も伝えようとしている、「これは仕事だ」って話もちゃんと分かってるよ。
私、生まれてからずっとこの世界で育ってきた。匡以外のみんなのこともパパも…ずっとそばで見てきたんだもん。
目的のためには、本心を隠して、嘘や駆け引き、汚い手だって使う必要があるってことくらい、バカじゃないから知ってるよ。
「伊達、匡は迎えに来いって言ったんだよね?」
「はい」
「もう、お仕事…終わったって?」
「ええ、目的の情報は掴んだ…と」
「…」
「…っ、莉音さん?!」
すでに仕事が済んでいるなら問題ないだろう。
確かにあの女は情報源なのかもしれないが…あの女ひとり失ったくらいで傾くような組織なら、さっさと畳んだほうがいい。
伊達の静止の声も聞かず、コツコツヒールを鳴らして近づく私に……彼らはまだ気がついていない。
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