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「なあ、数学のプリント、答え見せてくんね?」
始まりは高校3年、春。
2時間目と3時間目の休み時間。
茶色ってより、ミルクティー系の甘い色をした髪のその人が話しかけてきた。
私はその人を知っていた。
同じクラスってだけじゃない。
その人が握やかというか、目立つグループの1人だったから。
二重の目をして、鼻も高く。
スタイルは細くもなく太くもなくて。
どちらかというと背の高い彼は、〝かっこいい〟部類に入っていた。
そして私は、彼とは真逆だった。
大人しいグループに入り、髪も染めたことはなく。スカートの長さも調節したことないし。眼鏡をかけ〝毎日勉強してそう〟な見た目だった。
話しこられて、驚いたしもちろん戸惑いもした。私以外にもプリントを見せてくれる人がいるのでは?と思ったけど。
「ごめん、無理そう?」
顔を傾け、整った顔で私を見てくる彼に、私はいつの間にか「…どうぞ」と、机のファイルの中から数学のプリントを取り出していた。
「ありがと!助かる!昼までには返すから!」
このプリントの提出はお昼が終わったあとの5時間目。自分の席に座る彼は、私のプリントの答えを見ながら丸写ししているようで。
まだイスに座りながら話しかけられたことにドキドキしていると、「うわ、乙和とわが勉強してる!」と大きな声が聞こえた。
「してねぇし、写してるだけ」
「いや、勉強じゃんそれも」
「そうか?」
「誰のプリント? 小町こまちはる…?だれ?」
「同じクラスの子。俺、小町さんの字、おっきいから見やすくて好きなんだよな」
たった今プリントを貸した彼の声が聞こえた。
彼の言葉に、どうして友達でもない私のプリントを借りたのか分かったけれど。
いつから彼は、私の字を知っていたのか…。
同じクラスで、目立つ早川はやかわ乙和くんは、お昼休みに「ありがと」と、プリントと、お礼にと食堂で売っているりんごのジュースを私にくれた。
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