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「えー、しおりの10ページを見てください。修学旅行1日目のホテルの部屋割りです。うちの学校は4階に泊まります。他の階には他所の学校が泊まってますからね、絶対に入らないように。昔ね、君らの3つ上かな? 人気者の男子がいてね、他校の女の子が入ってきて大変でした」
それってもしかして、りっくんのことかな。
「ああ、それから、自由時間もね、大勢で大名行列みたいに歩かないこと。これもさっきの話の続きだけどもね。まぁ、三島みたいなのはこの中にはいないから大丈夫か」
やっぱりりっくんのことだ。
そういえば写真部の作品の中に、色んな学校の制服の女の子がりっくんの後ろに写ってるのがあった。
中学生活の端々で、りっくんのエピソードに触れた。
もうほとんど見かけることもないのに、集めたりっくんの欠片で僕の中はいっぱいになっていく。
それが苦しくて、でももっともっとほしい
3年になって、志望高校の調査の紙が配られた。
りっくんは、一高に行った。一高はこの辺りでは1、2を争う難しい高校だ。
「えー、運動部は特に部活やりながらの受験勉強は大変だと思います。でもまぁ、引退してから集中して一高に入った先輩もいますのでね、成せばなる、という感じで……」
これも、りっくんのことかもしれないな。
一高に入ったら、今みたいにりっくんの話が聞けるかもしれない。
高校は規模が大きいけど、でもあのりっくんなら、きっとみんなの記憶に残ってる。
また、集めたい
今度は高校生のりっくんの欠片を
なんでだろう
こんなに苦しいのに、どうして僕はりっくんを集めてるんだろう
小さな商店街、前方から背が高くてすごくスタイルのいい男の人が歩いてきてる。
少し着崩した、一高の制服。
りっくん……
今日は1人で歩いてる。
一瞬目が合って、りっくんはすぐに僕から目を逸らした。
もう慣れた
慣れたけど……
でもやっぱりチクリと胸が痛んだ。
欠片ばっかり集めても、りっくんにはならない。
りっくんは見るたびに更新されてて、どんどん格好よくなって、全然追いつけない。
ねぇ、りっくん
もう僕は『友達認定』してもらえないの?
足を止めて振り返り、足早に歩いて行くりっくんの後ろ姿を見送った。
あ……っ
りっくんが少しスピードを落とした。
振り返る?
ほんの少し頭を動かして、またスッと前を向いたりっくんは、最初よりもっとスピードを上げて歩いて行ってしまった。
りっくん……
離れてしまった友達を、いつまでも追いかけちゃいけないのかもしれない。
でも……
遠ざかっていく広い背中をじっと見つめた。
でも僕は追いかけたい
またりっくんに、笑顔で『空』って呼んでもらいたい
なんでそんな風に思うのかは分かんないけど、でも僕は確かにそう思っていた。
それが、幼い初恋だと気付くまであと少し
りっくんのキラキラの笑顔に包まれて、長い長い片想いが終わるまで
あともう少し……
了
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