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「もうね、入学した時からすごかったらしいよ、三島(みしま)先輩」  花壇の雑草を抜きながら部長が言った。  もうちょっと年が近くて一緒に中学に通ってたら、僕もりっくんを『三島先輩』って呼んでたのかな。 「三島先輩が陸上部に入って練習始めたら、グラウンドに女子の人垣ができてね」 「そうそう! 誰かが『差し入れする!』とか言い出して、自販機のスポドリとミネラルウォーターが売り切れになったこともあったんだって」  別の先輩が笑いながら言った。 「三島先輩は誰からも受け取らなかったらしいけどね」 「うわー、そんなことあったんですねー」  僕と同じ小学校から来た里田(さとだ)さんが、目を丸くして言った。    これで何個目かな、りっくんの『伝説』。  バレンタインのチョコ山積みとかは予想の範囲内だった。 「体育大会なんて平日にやってたのに、フェンスの周りに女の人がいっぱい来てたしね」 「毎年最後のリレーに代表で出ててね、三島先輩は絶対1番前でバトン渡してたよ」 「え、すごい、ですね」 「ねー! 前に何人いても全部抜いて1番! すっごい速かったもん、三島先輩」  見たかったーー…… 「カッコよかったよー。男子も見惚れてて「カッケー!」って叫んでた」  副部長が目を細めて言った。  中学に入学して、先輩や先生からりっくんの話を色々聞けた。  みんな懐かしそうに、嬉しそうにりっくんの話をする。  玄関には大会のトロフィーと一緒にりっくんの写真が飾ってあるし、写真部が月替わりで展示してる作品には、まだりっくんが写ってるものがあった。  中学時代のりっくんが、少しずつ集まってくる。  道ですれ違うりっくんとは喋れないけど、りっくんの欠片は手に入る。  広めの歩道、前方からちょっとダルそうにりっくんが歩いてきてる。女の子と一緒に。  少し前に見た子と違う。顔は覚えてないけど、この前の子はショートカットで、今りっくんの隣にいる子はロングヘアだ。  女の子と歩いてるりっくんは、絶対に僕の方を見ない。だから僕は、ある意味安心してりっくんを見ることができた。  ねぇ、りっくん  文化祭の展示でね、りっくんのコーナーがあったよ  サッカー部の助っ人とかやってたんだってね カッコいい写真見たよ  自販機のパックのコーヒー牛乳好きだったんでしょ?  僕も飲んでみたよ 甘くて美味しかった  ねぇ、りっくん  また背伸びたね  高校の制服、カッコいいね  僕は中学生になったよ 少しはりっくんに追いついた?  どんなに頑張っても、歳の差は縮まらない。  気怠げな顔をしてすれ違ったりっくんを振り返ってみた。  肩幅の広い、綺麗な後ろ姿が遠ざかっていく。  唇をぐっと噛んで、その背中を見つめた。
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