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小学校に入学して少しした頃、4年生のお兄さんとグラウンドでドーンとぶつかって知り合った。
お兄さんは、初めて会った日から僕を『空』って呼んだ。
僕はそれがなぜかすごく嬉しかった。
お兄さんは僕を見かけるとキラキラの笑顔で声をかけてくれて、だから苦手だった長い休み時間の外遊びも、嫌じゃなくなっていった。
「りっくん!」
僕がそう呼んだら、お兄さんは、りっくんは笑って応えてくれてた。
『友達認定』されたんだって思って、すごく嬉しかった。……けど。
3つ年上の友達と、同じ学校に通えるのは小学校まで。
りっくんが中学生になって、少しずつ距離が開いていった。
道で会っても声をかけてくれなくなって、笑顔を見ることもなくなった。
いつの間に『友達認定』解除されちゃったのかな。
そう思いながら、通りの向こう側を歩くりっくんを見ていた。
「えー、では次は陸上部です。どうぞ」
4月の、まだひんやりとした中学校の体育館。僕たち新1年生は、整列して部活紹介の行われている舞台を見上げている。みんな制服が馴染んでなくて、着せられてるって感じだ。
うちの中学校では、全員必ず部活に入らないといけない。
どうしようかなぁ
りっくんは、陸上部に入ってたって聞いた。
りっくんが中学に入ってすぐぐらいは、まだ時々喋ったりしてたし、大会で入賞したって話は聞こえてきていた。
「では陸上部の活動と、これまでの活動実績を発表します」
あ!
舞台の上のスクリーンに、走ってるりっくんの写真が大きく映った。
周りがザワッとする。主に女の子。
すっごいカッコいいから、りっくん。
陸上部の練習の様子や、大会の写真が映し出されながら、部長さんだという3年生が活動内容を話しているけれど、写真が気になって全然頭に入ってこない。まあ、僕は陸上部に入らないからいいんだけど。
全体の3分の2以上の写真にりっくんは写っていた。
陸上部の次の次に舞台に上がった写真部の紹介でも、りっくんの姿を見られた。
走ってるところ、跳んでるところ。あと、文化祭なのかな?って写真。
僕の知らない、中学でのりっくん
もっと知りたいな
中学生のりっくんのこと……
放課後、グラウンドの横を歩いて帰りながら陸上部の練習を見た。
あそこを走ってたんだ、りっくん。
見たかったなぁ……
部活紹介で見た写真を思い出しながらグラウンドを眺めていたら、手前の花壇に『園芸部』というプレートが立っていた。
……いいかもしれない、園芸部
中学生だったりっくんと、同じ風景を見られるかもしれない
そんな理由で、僕は部活を選んだ。
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