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 一方で手を止めたオークは顔を顰めては蟀谷に血管を怒張させながらフードの人物へ、堪えるように緩慢と鋭くなった眼光を向ける。 「何すんだ? あぁ?」  先程と種類は同じだが質の異なるドスの効いたその声は彼の中で煮えたぎる怒りを十二分に表していた。  だがそんな事などどうでもいいと言うように、その人物は視線の先でパーカーのポケットに両手を入れたまま歩みを進め始める。 「そうか。地面に頭擦り付けて謝るってんなら許してやってもよかったんだがな」  それを闘志と受け取ったのかオークは体を完全に向けると指の骨を鳴らしながら迎えるように歩き出した。  そして体格差が歴然とした二人が間合いを保ちながら対峙すると、裏路地には人知れず一触即発の空気が風に乗り流れた。首を回し戦闘態勢に入るオークと顔すら合わせず俯いたままのフード。オークに対してその人物は何かを言う訳でも何かをする訳でもなくただじっとポケットに手を入れ佇んでいた。 「なんだ? 怖気づいたのかよ!」  既に勝ち誇った声の後、オークは拳を構え一気に間合いを詰めた。自信の表れか真正面から何の細工も無しに突っ込むだけ。そしてあっという間にフードの目の前へ到達したオークは拳を力にだけ頼った方法で振り下ろした。自分よりも小さな、全力で殴れば一発で地面に沈める事が――もっと言えば殺す事さえ出来そうな相手に対して加減の無い一撃。  だがどんなに強力な攻撃とて当たらなければ意味がない。躱せるか直撃するか、その境目を超えるかどうかの紙一重。依然と顔は俯いたままだったがずっと沈黙していた両足の内、片方が半円を描いて動いた。もう片方を軸にし身を翻すと、フードの先は風で揺れ拳は空を切った。同時に発散させる対象を失った力に引っ張られオークの体は一歩前へ多く進む。  それに合わせ半円を描いた足が今度は振り上げられオークの腹部をとらえた。傍から見れば子どもが大人に(しかも筋骨隆々の)蹴りかかるように無謀と思えたが、足が腹部へ到達したその瞬間。オークは青天の霹靂でも起きたとでも言うように瞠目した。
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