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翌朝、私は早朝に目を覚ました。床で眠っている鷹野さんを起こさないようにそっとリビングを突っ切り、キッチンに立つ。
昨日の夜にタイマーをセットしておいた、出来立てほかほかの白米を二人分のお弁当箱に詰める。
得意のだし巻きたまごと、きんぴらごぼう。アスパラのベーコン巻きにかぼちゃの煮付け。彩りと栄養を考えたおかずをバランス良く入れて、少し冷ましてから蓋をした。
鷹野さんはまだぐっすり寝ている。夜の間に洗濯して干しておいたものをピンチから外して畳んでおく。それでもまだ目を覚まさない鷹野さんが心配になる。今日、確か早朝会議があるって言ってなかったっけ。
「鷹野さん、朝ですよ」
「ううん……」
私の声かけに、鷹野さんはうるさそうに寝返りを打った。仕方のない人だ。近寄って、肩を揺さぶる。
「鷹野さん、鷹野さんってば」
「うっせえ……」
「会議があるんでしょ? 早く起きてください」
根気よく声をかけ続けると、鷹野さんはうっすらと長いまつ毛を浮かせた。気だるげな表情で私を見ると、彼は突然長い腕を絡めて私を抱き寄せた。
「おはよ」
鷹野さんの唇が近い。
「た、た、鷹野さんっ! 寝ぼけないでくださいっ!」
私は沸騰したやかんみたいに顔が熱くなって、慌てて鷹野さんの腕を振り解いた。すると鷹野さんはようやく本当に目を覚まして、
「ああ……あんたか。ごめん。間違えた」と言った。
「誰と間違えたんですか……」
「デリヘル」
「最低!」
もう鷹野さんは二度と起こしてあげない、と私は心に誓った。遅刻したとしても彼の自己責任だ。
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