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男の人の裸なんて、私は当然見慣れていない。
そんな私の脳裏に、鷹野さんの裸が焼き付いて離れなくなってしまった。
定期的にジムでも通っているのだろうか、バランスよく筋肉が付いた男らしい身体つき。学生時代は絶対に激しいスポーツをやっていたと思われる。
あそこも、ヒロ君のより立派だったような……。
って、思い出したらダメだ! 早く忘れないと!
回線がショートしている私の元に、濡れ髪にスウェットとTシャツ姿の鷹野さんがやってきた。
「そんなに興味あった?」
「興味⁉︎ そんなもの、ありません! お、男の人の裸なんて、私、別に……っ」
「違うよ」
鷹野さんは笑って、DVDを指差した。
「そっち。あんたも好きなの?」
大河ドラマのことか、と分かってホッとする。そんな私を意地悪そうに笑いながら見つめる鷹野さん。その視線に、顔中がまた熱くなる。
「はい。これ、ずっと観たかったものなんです」
「じゃあ後で一緒に観る?」
私は思わず口を開けて涎を垂らしそうになった。
「本当ですか?」
私の顔つきを見て、鷹野さんはますますくだけた笑顔になった。
「そんなに観てえの? じゃあ待ってるから早く風呂から出て来いよ。一話分くらいなら一緒に観られる」
「は、はい! すぐに出ます!」
念願の大河が観られる。そう思ったら今までになくワクワクしてしまった。私はすぐにお風呂に入って、濡れた髪を乾かし、その間にお湯が抜けた浴槽を軽くお掃除をして、大急ぎでやっとリビングに戻った。
「鷹野さん、お待たせしまし……」
私の声が尻すぼみになった理由は、鷹野さんが床に寝転んでくうくう眠っていたのを目撃したからだった。
「待ってるって言ったくせに……」
本当に勝手な人だ。私の期待を返せ。
文句を言いながら、まだ濡れていた鷹野さんの髪をタオルで拭いて、肩にタオルケットをかけてあげた。
結局、鷹野さんに振り回されてしまう。
明日からどうなっちゃうんだろうと思いながら、私は再びキッチンに立った。
明日の朝とお弁当の分のご飯、炊いておかないと。
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