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『鷹野さん、ごめんなさい。今夜は友達と女子会の集まりに行くことになっちゃいました。適当に晩御飯をどこかで済ませてもらえますか?』
「女子会?」
梶浦小鳩から送られてきたメールを見て、鷹野は不機嫌になった。イラッとして、朝なのにもうタバコを吸いたくなる。
ここのところ仕事上の付き合いで夕飯は外食が続いていた。脂っこくて濃い味つけの料理にはそろそろ飽きが来た頃だ。今日こそは小鳩の手料理で一週間の疲れを癒したいと思っていたのに。
『女友達と俺、どっちが大事なんだよ』
と嫉妬男丸出しみたいなメールを送りつけたくなったが、ギリギリで踏みとどまる。そして、あることを思い出す。
それは昨日の昼に新婚の山田課長に声をかけられた時のことだ。
「鷹野、最近昼飯に美味そうな弁当持ってくるよな」
忙しい業務の間にデスクで早弁しようとしていた鷹野の彩りの良い弁当箱を見て、課長が言った。
「うす」
「もしかして、彼女できたのか?」
「そんなんじゃねえっすよ。飯作るのが異常に上手くなったんです」
「お前が⁉︎ 自分で作ってんの⁉︎」
「うす」
苦しい言い訳も押し通してしまえば意外と通るものだ。山田課長も感心して、すげえなあと漏らした。
「うちは奥さんが頑張って愛妻弁当作ってくれているんだけどさ、毎朝そのために俺より一時間も早く起きてくれてるんだよな。自分も仕事があるのに、本当に感謝だよ。愛だよな、愛。愛がないとやってらんないよ、こんな面倒なこと」
「愛……っすか?」
「そうだよ。作る以前のメニュー考えるところから、俺の健康のこと考えてくれてるんだよ? はあ、最高。俺の嫁。愛してる」
「惚気、うぜえっす」
「お前は本当に正直者だな」
「あざす」
「褒めてねえわ」
鷹野はいつも山田課長の惚気を右から左へ聞き流していたが、この時は少しだけ課長の話が気になった。
「……そんなに大変なんすか? 飯作るのって」
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