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一人うろたえる天翔をよそに、男は移動を始めていた。
眠っていたベッドのような場所から下りる。さすがに下半身は裸ではなく、天翔はほっとする。
「と、まぁうん。いくつか説明したいことはあるんだけどさ」
まるで言葉を探すように少し唸って、男は言葉を発した。
(そうだ、説明!)
どうして天翔がここにいるのか――。
それを説明してもらわなくては、天翔は納得できない。してもらったところで納得できない可能性もゼロではないが。
「長い話になるだろうから、こっちに来ればいい。お茶でも淹れよう」
椅子の背もたれにかけてあった上着を羽織った男は、天翔のことを手招きする。
男が笑みを浮かべている。胡散臭いことこのうえないが、従うしかない。
天翔は恐る恐るベッドから下り、男のほうに近寄った。
ベッドから少し離れた場所にはソファーとローテーブルが設置されていた。
「そこに座っていたらいい」
男は抑揚のない声で指示を飛ばす。
(今はこの男を頼るしかないんだよな)
現状、天翔はこの男の言うことに背くことは出来ない。
嫌というほどにわかってしまうため、天翔は言われるがままにソファーに腰を下ろした。
「さて、説明を始める前に自己紹介をしようか。俺はナイトハルト・シュタルク。年齢は二十六」
洗練された動きで、男――ナイトハルトはティーポットを扱っている。見惚れてしまいそうな動きだった。
(いや、今はこの人について考えなくちゃ)
お茶云々よりも、このナイトハルトという男のことのほうが大切だ。
(ナイトハルトっていう名前は外国人のものだよな? いや、この場合は異世界人というほうが正しいのか?)
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