第1章 失恋したら異世界に転移しました

11/14
前へ
/14ページ
次へ
 一人うろたえる天翔をよそに、男は移動を始めていた。  眠っていたベッドのような場所から下りる。さすがに下半身は裸ではなく、天翔はほっとする。 「と、まぁうん。いくつか説明したいことはあるんだけどさ」  まるで言葉を探すように少し唸って、男は言葉を発した。 (そうだ、説明!)  どうして天翔がここにいるのか――。  それを説明してもらわなくては、天翔は納得できない。してもらったところで納得できない可能性もゼロではないが。 「長い話になるだろうから、こっちに来ればいい。お茶でも淹れよう」  椅子の背もたれにかけてあった上着を羽織った男は、天翔のことを手招きする。  男が笑みを浮かべている。胡散臭いことこのうえないが、従うしかない。  天翔は恐る恐るベッドから下り、男のほうに近寄った。  ベッドから少し離れた場所にはソファーとローテーブルが設置されていた。 「そこに座っていたらいい」  男は抑揚のない声で指示を飛ばす。 (今はこの男を頼るしかないんだよな)  現状、天翔はこの男の言うことに背くことは出来ない。  嫌というほどにわかってしまうため、天翔は言われるがままにソファーに腰を下ろした。 「さて、説明を始める前に自己紹介をしようか。俺はナイトハルト・シュタルク。年齢は二十六」  洗練された動きで、男――ナイトハルトはティーポットを扱っている。見惚れてしまいそうな動きだった。 (いや、今はこの人について考えなくちゃ)  お茶云々よりも、このナイトハルトという男のことのほうが大切だ。 (ナイトハルトっていう名前は外国人のものだよな? いや、この場合は異世界人というほうが正しいのか?)
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加