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「どうすればいいんだよ」
スマホがない。それはつまり、連絡手段がないということだ。
天翔はこれを悪い夢だと思いたかった。やけに現実味があり、頬をつねっても覚める気配がない時点で、可能性は低そうだが。
(もう一度寝よう。そうすれば、夢は覚めるはず)
天翔にとって、眠るということは最終手段だ。
万が一、もう一度起きたときもこの状況だった場合。諦めて、現実を受け入れようと決意する。
掛布団の端を掴んで、自身のほうに引っ張ったのだが――。
「ん?」
天翔が引っ張ってもびくともしない。まるで、なにかに引っ掛かっているかのようだ。
さらに、布団の中が妙に温かいような気がする。嫌な予感が胸の中に芽生えた。なんだか頭も痛んできたような気がする。
頭を抱えたい衝動に駆られたとき、すぐ隣から「んっ」という声が耳に届いた。
それが男の声だということに、天翔はすぐに気が付く。
「え、俺、もしかして――ヤッちゃった?」
思考が一気に動き出す。
もしかしたら、自分は男と性行為をしてしまったのかもしれない。
胸の中に渦巻く不安はどんどん大きくなる。冷静さも平常心も。すべて不安にのみ込まれてしまいそうなとき。
自身の身体が視界に入る。上着はないが、衣服は少しも乱れていない。
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