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「ロレンシオ、私……その」
「どうして、俺以外の男との出逢いを求めた」
そして、ロレンシオはそんな言葉を告げてくる。……出逢いを求めたのは、ロレンシオへの恋心を消すためだ。失恋の傷を癒すには、新しい恋をするのが一番。そう、思ったから。
「……ロレンシオのことを、忘れようと、して」
最後の方の声は、とても小さくなってしまった。こんなことを言えば、自分はどれだけ彼のことが好きなのだろうかとも、思ってしまう。それでも、ずっと恋焦がれてきた。だから、失恋してとても辛かった。
「どうして、俺のことを忘れる必要がある。俺は、アデルミラのことを一日たりとも忘れたことがなかったのに」
力強い声でそう言われ、アデルミラの心がざわめく。……もしかして、勇者と王女の婚姻話はデタラメなのだろうか? 一瞬そう思ってしまうが、新聞などでも堂々と発表されていた。自分の聞き間違いでも、見間違いでもないはずだ。
「だ、だって、だって、ロレンシオ、王女殿下と婚姻するんでしょ……? だから、私、私っ……!」
思い出したら、涙があふれてきそうだった。十八歳。まだまだ子供なのかもしれない。そんなことを考えながら、アデルミラはぽろぽろと涙を零してしまう。そうしていれば、ロレンシオは露骨に「はぁ」とため息をつく。……一体、何が彼を困らせているのだろうか。
「アデルミラ。しっかりと聞いてくれ。……確かに、俺はビアンカ殿下と一度は婚約者の関係になった。だが、その関係はもう解消した」
「……え?」
「あのニュースはな、国王陛下が一方的に発表したものだ。俺たちの許可も得ずに、勝手な行動をされたんだ」
その言葉は、アデルミラからすれば意味の分からないものだった。
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