本編

3/34
前へ
/34ページ
次へ
「最低っ!」  その日、新聞を片手に平凡な街娘であるアデルミラ・カルヴァートはお酒を煽った。アデルミラは今年十八歳を迎えたばかりの若い娘だ。この王国では十八歳から飲酒なども認められている。だから、アデルミラがお酒を煽ることは何の問題もない。まぁ、彼女はお酒があまり好きではないのだが。しかし、今日は別だ。そう思いながら、アデルミラは濃い紫色の髪をかき上げる。 「なにが王女殿下と婚姻よ……! 私、三年間も待っていたのに……!」  溢れてくる涙は、なかなか止まってくれない。普通ならば魔王が倒されたことを喜ぶべきで、王女と勇者が婚姻することを祝うべきなのだ。それでも、アデルミラにはそれが出来ない深い訳があった。  それは――このアデルミラが、勇者が故郷に残してきた恋人だからだ。 「ぐすつ、お兄ちゃん、私のことを捨てたぁ……!」  アデルミラと勇者ロレンシオは、世にいう「幼馴染」という関係だった。  幼少期から五つ年上のロレンシオにくっつき、懐き、「将来はお兄ちゃんと結婚する!」なんて無邪気に話していたアデルミラ。あの日までは、その夢が間違いなく叶うと思っていた。  あの日、三年前のあの日。……ロレンシオとアデルミラの道は、別れた。  ロレンシオは神託を受け、魔王を倒すべく勇者として旅に出たのだ。故郷にアデルミラを残して。その際に、ロレンシオは「絶対に迎えに行くから待っていろ」と力強く言ってくれた。別れ際に初めて口づけもしてくれた。だから、アデルミラはこの三年間ずっとずーっと待ち続けた。  きっと、ロレンシオならば帰ってきたらプロポーズしてくれるだろう。自分ももう、十八歳だ。婚姻が可能な年齢を迎えている。そんなことを思いながら、恋人の帰りを今か今かと待っていた。なのに……訪れたのは、手酷い裏切り。 「やっぱり、王女殿下の方がいいのよね……。ビアンカ王女殿下って、この王国でもかなりの美女だって有名だもの……」  アデルミラも、そこそこ美人だとは自負している。それでも、華やかな王女と比べてしまえば天と地ほどの差がある。どう足掻いても、敵わないだろう。それは容易に想像がついたので、アデルミラはロレンシオの元に突撃することはなかった。ただ、一人でお酒を飲みながら泣いていたのだ。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

207人が本棚に入れています
本棚に追加