本編

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「……やってきたわ、『リナリア』」  アデルミラの前に立ちふさがる、純白の城のような豪奢な建物。その建物を見つめながら、アデルミラはそうぼやいた。  ここは王都一の結婚相談所『リナリア』。別名『縁結びの園』。ここに登録すれば、九割の人間が一年以内に運命の相手と出逢えるという。その分会費は高めだが、そんなことアデルミラからすれば気にすることでもなかった。貯金ならばたっぷりとある。どうせ、ロレンシオは自らを迎えには来ないのだ。ならば、もっといい相手を見つけるだけだ。そう、思っていた。  そんなことを考えながら、アデルミラはゆっくりと木製の扉を開く。そうすれば、建物の内部が見えた。純白をイメージしたような、綺麗な内装は清潔感がある。受付に立つ一人の女性は、アデルミラのことを見つめてにっこりと笑った。その笑みに、アデルミラの緊張していた心がほぐされていく。 「ようこそ、『リナリア』へ。私はここの支配人のセレナと申します」 「……支配人、さん」 「はい」  こんなにも若い女性が、ここを切り盛りしているのか。そう思ってしまい、アデルミラは目を見開く。  セレナと名乗った支配人は、どう見ても二十代半ばにしか見えない。確かに『リナリア』はここ五年程度で急成長した結婚相談所だが、まさかこんなにも若い女性が支配人だとは思わなかった。そして、何故支配人であるセレナが受付などをしているのだろうか。 「……あの」 「いえ、今日は雇っている受付嬢の子が体調不良でお休みなので、私が受付をしているだけですよ。さて、まずは登録しましょうか」  セレナはそれだけを言うと、アデルミラのことを手招きする。それから、アデルミラがセレナに連れてこられたのは……受付のすぐ隣にある応接スペースのような場所。その後、セレナはアデルミラにソファーを勧めてきたので、アデルミラはソファーに腰かけた
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