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おばあちゃんの声は、静かに、しかし確かに心に響いていた。まるで、彼女自身がその時代を生きていたかのように、私たちの目の前に鮮やかな風景を描き出しているようだった。 「生贄にはその時人間としての扱いを受けられなかった可哀想な人達が選ばれていたんだ。でも、そんなことが許されるはずもないよね。ある日を境に、人々は人間を生贄にすることをやめたんだ。それでね、ある神様が現れると、生贄の代わりに、てるてる坊主が捧げられた。そこから人々はてるてる坊主を作るようになったんだよ。だけど、そのてるてる坊主は、ただの物に過ぎなかった。最初は神様は興味を示さなかったんだ」 おばあちゃんはそこで一度、深いため息をついた。 「でも、どうしてか知らないけれど、そのてるてる坊主には特別な意味が宿るようになったんだ。人々がたくさんのてるてる坊主を作ることで、そこに宿った魂があった。その神様の生贄となって亡くなった人々の魂が、生贄にされてしまった無念が、少しずつそのてるてる坊主に力を与えて、付喪神という存在になったんだよ」 私はその言葉に驚いた。普通のてるてる坊主が、亡くなった人たちの魂を宿し、神様との繋がりを持つ存在になるなんて、想像もつかなかった。 「付喪神となった人々は、最初は神様のご機嫌とりに使われることを嫌がっていたけれど、次第にこの世の様子を見られることに喜びを感じるようになった。彼らは、雨が降るたびに現世を眺め、私たちの生活を見守っているんだ」 おばあちゃんの目が、少し潤んでいるように見えた。 「その中には、彼らが愛していた人々や、大切に思っていたものもあったから、彼らは現世を楽しむことができるようになった。神様との関係も変わって、あるときから神様は付喪神たちとともに、この世の景色を楽しむようになったんだ」 私は心が温かくなるのを感じた。何気ない雨の日が、こんなにも多くの物語とつながっていることに驚いた。 「だから、今私たちがてるてる坊主を作るのは、それはただの雨を止めるためのものではなくて、亡くなった人たちの思いを引き継ぎ、彼らの魂を感じるためのものなんだよ」 おばあちゃんは、私と弟を見つめながら微笑んだ。その微笑みは、まるで過去と現在が交差する瞬間を教えてくれるかのようだった。 「だから、雨が降るたびに思い出してみて。その神様とてるてる坊主に宿る魂たちは、雨が降る度に彼らが一緒に現世を見にくるんだって」 その言葉が、私の心に深く刻まれた。どんな時でも、過去の思い出は、私たちの生活に色を与えているのだと。
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