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真後ろから聞こえてきた鋭く刺すような声に「ひぇっ!」と飛び起きた。
恐る恐る振り向けば、涙で不鮮明な視界の中でも分かるほどの美青年が、私を見下ろしていた。
「っ、え、…いつから?」
「あんた達がくるだいぶ前から」
「どこに…?」
「あそこ」と彼が指差すのは奥にあるカウンター。
"あんた達" とは私と三上くんのことで間違いない。ということは……私が盛大に振られたところも、惨めに泣き喚いているところも、全部この美青年に聞かれていたんだろうか…。全然気がつかなかった…。
「俺、図書委員。ここ開けたのも俺だから」
「あ、そう、なんですね…」
4月5月の2ヶ月間は【本を読もう!朝活読書月間】らしく、8時から図書室が開けられている。本来ならお昼休みと放課後にしかできない本の貸し出しも朝からできるらしい。
だけどこの学校で朝から読書に励む生徒なんているはずもなく…。案の定私がここへ来た8時15分の図書室は閑散としていた。
利用者がいないのにわざわざ朝の貴重な時間を委員会の仕事に費やす美青年に、見苦しいところをお見せしてしまった……。
「騒がしくしてしまって…すみませんでした」
「うん」
「先ほど見たことも、聞いたことも、忘れていただければ…」
「ん?先ほど見たこと?」
「へ?」
絵に描いたようなきょとん顔を浮かべる目の前の彼に、もしかして見ていたのは私の泣いている姿だけ?なんて、淡い期待をしたのも束の間。
「あー……、」と考え込むポーズを取った美青年は、
「別れたいって哀願する男にみっともなく縋ったのに結局逃げられたこと?」
と、ニヒルに笑った。
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